P.S 母さん、愛しています。
7歳になる前だった。

母親に手を握られて帰ったばあちゃん家の前で、ジィーッと立ちん坊をさせられた。


横に立つ母親の目からは、涙がボロボロと溢れ返ってる。

子供の頃の俺は、その意味も分からず、ボーッと眺めてた気がする。




「…入らないの?」


尋ねる俺に頷くものの、一向に中へは入れない様子だった。


後から聞いた話では、母親は俺の父親と駆け落ちのようにして家を出たらしい。

だから、実家の敷居が高くて、跨ごうにも跨げなかったんだ。




「お入りなさい」



ばあちゃんの声に反応して、胸を借りて大泣きした。

あれを最後に、泣いてる母親の姿は見たことがない。




「絶対に幸せになるっ!もう2度と誰も好きにならないっ!!」


リコンのセオリーを口にして働きだした。

身を粉にして、朝から晩までずっと働いた。



ただひたすら、生活を支える為に。


俺を…独り立ちさせる為に。




「母さんはもう十分働いた。陽希を大学に通わせられるだけの資金も作った。だから、もう働かない!残りの人生は、自分の思うように生きるっ!」


大賞を受賞した日、そう言って目を輝かした。

呆れてるばあちゃんやおいちゃんと同じく、ぽか〜んとした顔で母親を見てた俺だったけど………



胸の中では、「頑張れっ!」と後押しして気がする。

俺やばあちゃん達のことなんて気にせず、「やりたいことだけやれっ!」って考えた。


< 5 / 46 >

この作品をシェア

pagetop