痛いくらいのキスをして
三本目の客は常連の岩井さんだった。
岩井さんは介護関係の仕事をしてる50歳の優しいオジサマって事くらいしか覚えてないけど、もう一年くらい通ってくれてるお得意様。


「岩井さん、よろしくお願いします」

「麻衣ちゃん久しぶりー。今日はミニスカなんだね」

「岩井さんは仕事帰りですか?」

「そうそう。疲れたから麻衣ちゃんに会いたくなってね」

ぎゅーっとハグされる。
まるでパパのような暖かさに思わず顔が緩む。

「岩井さん、シャワー行きましょっか?今日は麻衣が色んな事して癒してあげますよ?」

「ありがとー!行く行く!」

手を繋いで、シャワールームへの誘導を行う。

私はこの仕事に誇りなんて無い。

でも、こうやって一瞬でも、嘘っぱちでも、人を癒す事が出来る実感は嫌いではなかった。

それが例え、身体を傷つける行為だとしても。


「麻衣ちゃんはさー、この仕事しかしてないの?」

行為の後、タバコに火を付けた岩井さんが私の頭をふわりと撫でた。

「してないですよー、短大も中退してるし」

「もったいないなぁ。麻衣ちゃんみたいな素直で優しい子がウチの施設の介護士さんなら助かるのに」

「介護士、ですかぁ?」

「介護士って人手不足で給料安くて良いイメージ無いでしょ?でもハマると楽しいんだなぁこれが」

「そうなんですか…?」

「風俗嬢もほら、どんなお客様にもルールの範囲内で喜んで頂けるサービスを提供して、また来てもらえるように頑張る仕事じゃない?
そりゃぁ顔が可愛いとかスタイルが良いのも魅力として必要かもしれないけど、可愛いだけじゃリピートしないしね。その子の頑張る姿とかに癒されるからまた来ちゃうんだよ」

「なるほど…」

「そういう部分でいうと、風俗嬢と介護士って遠い分野だとは僕は思えないんだよね」

岩井さんはそう言うと、タバコを消して私の頭をポンポンと撫でた。




介護なんて金にならない仕事に興味なんて湧かなかった。

今私に必要な事は、いかに借金を早く返せるかって事だけだ。

夢も希望も守りたい人もいない。

大金を積んでくれるのなら、どんな男にだって足を開いたっていいんだ。




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