このままキミと朝まで愛し合いたい

ずっとずっと


「だから俺、昨日 夏川んとこに行ったんだよ。

ずっと前から、この日に行くって決めていたから。」




ドキドキが加速する。

ああ、そういうことか…。

これは、偶然なんかじゃなかったんだね。


おばあちゃん、ありがとう。

おかげで、藤咲にもう一度会うことができたよ。

だって昨日は…おばあちゃんの命日だったのだから。

目ををつぶれば、優しい笑顔が蘇る。


『おばあちゃんがいなくなっても、千尋ちゃんを見ててくれる人がきっといるからね。』



「藤咲…おばあちゃんとの約束って…?」

「…ん?簡単に言えば、お前の見守り当番を引き受けた。」


「なにそれ?」


「いいんだよ、細かいことは。
とにかくこれから俺は「夏川専属」のなんでも屋だから、いつでも困ったときは言えよ。」


「えっ?私専属ってなに?なんでも屋って仕事じゃないの?」



「いや…違うよ。
なんでも屋なのは、お前にだけ。

俺、この春から、お前んとこの薬局の前にある 総合病院で働いてる。」



「えっ…うそっ?」


藤咲の言葉に驚きを隠せない。

それって一体どういうこと?



「お前、驚きすぎ。ったく、なんだよ、その顔。

…俺ね、浪人したあと、福祉系の大学に行ったんだ。
お前のばあちゃんと関わることで、病院に入院してる他のじいちゃんばあちゃんとも仲良くなってさ、いろんなことを手伝ってやってたんだよ。

話し相手になるだけでもさ、みんな感謝してくれて、それがすっごく嬉しいし楽しかった。

で、今の仕事を目指すようになったってわけ。


大学では、取れる資格は全部とったんだぜ?
授業ビッチビチ。
ちっとも遊んでる暇なんかなかったよ。

あの怠け者の俺がだよ、一日中勉強漬けでな?」


藤咲は、鼻の下を指でこすりながら、照れくさそうに笑う。


「それでも、夏川には全然追いつかねーけどさ。」


へへへって、あの頃みたいに 大っきな白い八重歯を見せながら。


「これでまた近くにいて、お前のこと見てやれっから。
なんかあれば、すぐ助けに来てやるよ。
だから俺を信用して、今度はちゃんと頼れよな?」



「…今度は…って?」


藤咲は、ふうっと一つ息を吐く。


「今更言うのもなんだけど…高校んときも、一応俺なりにお前を見守ってたんだぜ?
あの頃は、ちっとも俺を頼ってくれなかったけど。」


「えっ、だって…。」


なによそれ。
そんなの知らない。



ずっと、からかわれてばかりいると思ってた。


胸が苦しい。


綿菓子みたいにふわふわで、やわらかな気持ちが、どんどん膨らんでくる。



ねえ、おばあちゃん…

私を見ててくれた人…ここにいた…



「…好きなやつがいるなら、ちゃんと言えよ。免疫無いんだから、わかんないことは俺が教えてやっからさ。」



ずるいよ、藤咲。


こんなに素敵になって現れて。



あなたのせいで、こんなに胸がいっぱいだよ。


どうしたらいいの?


「じゃあ…教えて…。」


「ん?何を。」



「…私、す…好きな人がいるの…。」



下を向く。

藤咲の顔が見られない。


「…ふー…ん、そっか。…そいつ、いいやつか?」


「うん…。」


「…お前から好きって言ったか?」



「ううん。」



「そっか…。

胸がいっぱいになって、ボカンと爆発したら、勝手に言葉が出てくるよ。大丈夫。そのときまで、ゆっくり待てばいいよ。」



「…うん。」


「告白できたら、俺に言えよ。
そしたらお前専属のなんでも屋は、廃業してやるからさ。」



告白したら、廃業…?

顔を上げて、そっと藤咲を見る。


視線の先には、膝を抱えて遠くを見つめる藤咲がいた。

小さな沈黙さえ、震えるほど緊張する。



「なあ…自信持てよ。お前…ムカつくぐらい…綺麗になってんだし。」


思いがけない藤咲の言葉に、どきんと心臓が跳ねた。


「えっ?なに?もう…こんな時に、からかわないでよ…。」


今、心電図をとったら、完全に不整脈。


「バーカ、ホントだよ。久しぶりにお前を見たとき、足がすくんだよ。制服のウエスト、俺と同じだったくせに、今のお前の服はぜってー入んねーもん。勝手に綺麗になって、正直ちょっとムカついた。」



藤咲は、あの頃と変わらぬ いたずらな笑顔で私を見る。

ふっと高校時代に戻ったような錯覚に陥ってしまう。


教室のざわめき、チャイムの音。

夕暮れの教室で、窓枠に座って遠くを見ている藤咲の横顔。


私は、首をぶんぶん振った。


「ふ、ふざけないでよ。」


「ふざけてねーって。

まあでも、俺が心配するほどでもなかったな。お前、ちゃんと恋してんじゃん。

夏川が好きになったやつなんだから、きっとすっげーいいやつなんだろうな。…俺、全力で応援してやるからな。」



きゅうっと胸が苦しくなる。

ワーッと走り出したい衝動に駆られるくらい、吐き出したくなる想い。


あなただよ、私が恋してるのは、藤咲、あなただよ。

藤咲じゃない人と、恋なんかできるわけないじゃない!



時限装置のスイッチが入る。


…もう限界。



私は、目を閉じ大きく息を吸った。















「…好きっ!」




< 11 / 13 >

この作品をシェア

pagetop