私は、エレベーターで恋に落ちる
「実は、まだ、見せたいものがあるんだ」
店を出て、エレベーターに乗ろうというときに、そう言われた。
エレベーターで下まで行けば、もう会うこともないだろう。
これで終わるのかな。
楽しい時間も終わりだと思ってたから、彼からの提案は嬉しかった。
下に向かうものだと思ったのに、彼は上に向かうボタンを押した。
彼は、さらにエレベーターで上へと連れて行くつもりらしい。
「上に行くの?」
「そうだよ」それ以上説明してくれない彼。
どうして上になんか行くんだろう。
この上には、会員制のラウンジとバーがある。
お酒飲みたいのかな。
お酒は、美味しいワインを飲んだから、それで十分だった。
ところが、
エレベーターに乗ると、彼は、そのどちらのボタンも押さずにRマークのボタンを押した。
Rのマークは、どのビルでも同じビルの屋上だ。
「最上階の上には、ヘリポートがある」
「ヘリポート?まさか屋上?行くの?」
確か、季節は今、真冬だと思う。
マジで?
「君は、しっかりコートを着てるね?」
着てるけど。
そういうことは先に言ってよ。
屋上に行くなら、南極にっても大丈夫なように用意を整えたのに。
家には、もっと分厚いコートだってあったのに。
彼のカードは、屋上の階にも止まることができた。
ちょっと寒いけど、と彼は断ってからいう。
「屋上は、ヘリポートになってる。夜のスカイデッキ。きっと素晴らしい夜景が見られるよ」
下の階とは違って、飾り気のない出口に出た。
伊村さんが外に向かう扉に手をかける。
「ここは、ビルの屋上階に位置する、海抜275mのオープンエアーデッキ」
それは、相当風が強いっていうことだよね。
そのかわり、景色は一見の価値があるよ。