私は、エレベーターで恋に落ちる
「いい?外は、凄い風だから覚悟して」
彼がコートの襟もとをなおしてくれる。
ほんと、寒そう。
「はい」
一人じゃ、こんなところに来ようなんて思わない。
「一応、柵はあるけど、隅の方には行かないでね。足元が悪いから」
「はい」
「それから、上から物は絶対に落とさないでね」
「はい」
「じゃあ、行くよ!」
外に出るには、カードキーの他に暗証番号の数字を揃える。
アナログなキーも付いている。
彼が、扉を開けると勢いよく風が入って来る。
「うわっ!寒い!!」
出口から、さらに上に続く階段を上っていく。
すでに、強い風が吹いている。
一段一段階段を上がっていくと、夜空の大パノラマが広がっている。
でも、その寒さを吹き飛ばすぐらい、圧巻の大空が広がっていた。
遮るものが何にもない。
360度の大パノラマの景色が迫力だ。
上空の星を眺め、風を肌で感じることが出来る。
「凄い!!」叫びたくなった。
言葉にならない。
もちろん、景色だけじゃなくて。
こんなに短い時間で、こんなに強い印象を与えていく人がいるなんて。
「気温は、この時期にしてみれば暖かい筈だけどな」
「うん」
それでも、私はコートの前を合わせて、なるべく露出部分を減らすために首を縮める。
「さすがに、冷えるな」
そう言いながら、私が首を縮めて寒さをしのいでるのに比べて、伊村さんは平然としている。
手袋もしないで、私に向かってこっちへおいでと手招きしている。
彼の立っている場所は、私がいるところよりもビルの端に近い。
一応柵はあるみたいだけれど……
さすがに、隅の方に行って下をのぞく勇気はない。
風で煽られたら、どこかに飛ばされそうだもの。