私は、エレベーターで恋に落ちる
「こっちへおいで」

彼はいつの間にか、声が届く位置にまで近づいていた。

「冗談じゃないくらい寒い!」
なぜか大きな声で叫ぶ。


「普通のビルよりだいぶ高いからな」
とても素晴らしいけど、長くはいられない。
本当に凍ってしまう。

「もう、いいって。帰りましょう」



「待てよ!」

後ろから、彼に抱きしめられた。

普通なら、いきなり何するのよと言うところだけど。

こんなときだから、人のぬくもりは、とてもありがたい。

彼の腕が私の体を包んでる。

「ほら、あれが東京タワー。こっちの方が高い位置にあるから、向こうが低く見える」
耳元で、聞こえる彼の声が心地いい。

「うん」

東京タワーの左側は高層ビルが並んでいて、思わず息をのむような素晴らしさ。


「あっちが、レインボーブリッジとお台場観覧車だろう?」

「きれいだな」

彼の見ている方を見る。
私の肩に顔を乗せて、遠くを見ている。

街の明かりが、冷たい夜の空気の中できらめいている。

普段見慣れてる夜景よりも、高い場所から冷たく光る街の営みは、とても幻想的で、酷く寒い思いをしたために、特別に見える。

さっき、レストランでも、同じような夜景を見たはずなのに。

見える景色が全然違う。

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