私は、エレベーターで恋に落ちる
彼の頬が私の頬にぴったりとくっ付いた。

「頬っぺた、冷たいって!」
やっぱり、叫び声のように声が大きくなる。

振り向いて、彼に文句を言おうと思った。



言葉は、口から出て来る前に、氷ついて口の中で塊になる。

思いもよらない、熱い真剣な眼差し。

こんな時、見つめてなんかいないで、ふざけて冗談でも言ってくれればいいのに。

「彩弓」

彼が私の名前を知ってたなんて驚きだけど、もっと驚いたのは、優しくそっと触れるようなキスをして来たことだった。

まるで、愛してるよって言うときみたいに。

静かに。

こういうキスなら、許してくれる?

とか、ずっと君のこと好きだったんだ。

って言うときにするキス。

何度も、繰り返し。

こんなキスに答えてるなんて、本当に好きになっったらどうするのよ。
そんなことを気にしながら。

彼の口から、出てきた言葉は甘い言葉じゃなかった。

「芯まで冷えちゃったな。戻ろうか」

本当に?

これで終わりなの?

こんなことされたら、忘れられなくなっちゃうじゃないの。


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