私は、エレベーターで恋に落ちる

「大丈夫か?」

「うん」

膝ががくがくして、階段を下りるとき踏み外しそうになったけど、大丈夫だろう。

多分。

扉を閉め、エレベーターのボタンを押したら、すでに彼はいつもの彼に戻っていた。


「あの……」

余韻を残しているのは、私だけのようだ。

彼はもう、頭を切り替えている。

さっき屋上で見せてくれていた、瞳の中の、微かな希望の光のようなものは、すでに消えてなくなっていた。

どこをどう探しても、短い時間では見つからない。


「鼻水出てるぞ」

指で鼻をつまもうとするから、私は慌てハンカチを出す。


一瞬だけ。
彼に近づけたと思ったけど。

錯覚だったのかな。

彼は、いつのまにか私と距離を保って、寄せ付けないでいる。



なんなんだ?

急に腹が立って来た。
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