私は、エレベーターで恋に落ちる
どうして、わざわざこんなことするの?

わざと記憶に何か残そうとするのよ。

「どうかしたのか?」

「どうもしない」

「どうもしないって、怒ってるように見えるけど」


「私が、怒ってたって、俺にはもう、関係ないって思ってるでしょう?」

「そうかもしれない。君とはここで別れれば、関係なくなる」

少しくらい、残念そうにしてくれればいいのに。

悲しいとか、寂しいとか言ってくれればいいのに。


「どうして普通にサヨナラできないの?」


「オフィスで事務的にありがとうございましたって別れた方がよかった?」


「あなたは、楽しかったの?それとも、訴えられたらまずいと思って、ご機嫌を取ろうと思ったの?」


「それは、違う。俺は、君が訴えるのかどうかなんて気にしてない」

「じゃあ、どうして食べたことない高級店に連れて行ったり、とんでもなく寒いところに連れて行ったり。思い出すじゃないの」

「だって、そうすれば、こうしてビルを見た時に、君は、俺のこと思い出してくれるかなと思って」

「少なくとも、エレベーター見る度に思い出すわよ」

「それはよかった。エレベーターは、毎日見かけるからな」

「バカ」

「お互いに、いい思いでになればいいなと思って……」

思いでなんて残してどうするのよ。
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