私は、エレベーターで恋に落ちる
セキュリティーシステムの検証が終わって、だいぶたったころ、林田さんがオフィスにやって来た。
私は、どこかに隠れていないかと、もう一人の姿を探したけれど、やって来たのは林田さん一人だった。
「お久しぶりです」
彼がいつののように、丁寧に頭を下げる。
「こちらこそ、その節は大変ご迷惑をかけました」
彼は、もう一度頭を下げた。
私も、彼に倣ってすみませんでしたと頭を下げる。
林田さんが、私の行動を手で押さえようとしてる。
「いえいえ、謝らないでくださいよ。篠原さんがシステムの穴を見つけてくれたおかげで、事前にクライアントに報告して、対処できましたから本当は、感謝したいほどです」
「感謝だなんて」
「篠原さん、それで、一応、この通り報告書ができあがりました。この書類にサインしていただければ、私たちの仕事はこれで終了になります」
「はい」
注意事項に鉛筆でしるしがしてある。
これでよろしいですか?と林田さんが私に確認を取って行く。
最後のページになった。
私の署名する欄の上に、伊村将生と署名がある。
癖のある字。
彼の字だ。
懐かしさでいっぱいになる。
彼はここにいるの?
「林田さん?これ、伊村さんのサインですよね?」
先急ぐ気持ちを押さえて、私は林田さんに尋ねる。
「はい。そうですよ」
それを聞いて立ち上がった。
彼が、このビルの中にいる?
本当に?
居てもたってもいられなかった。
彼が、このビルにいる!
今、すぐにオフィスに行けば……
「そのサインは、一週間前のです」
林田さんが見かねて言った。