私は、エレベーターで恋に落ちる
「一週間前?」

「はい。この資料、作成したのは伊村さんですが、今回かかわったいろんな部署の人がサインしてますから……ここまで来る前に、一週間かかってますので」

「伊村さんは、もう、別の仕事先にいってるの?」

私と違って、彼の方は風邪もひかずに、ピンピンして仕事してたんだ。
凄いな。やっぱり尊敬してしまう。

「そうでしょうね。スケジュールぎっしり詰まってますから。あの人。ああ、でも、どうだろう。今頃は海外にいると思いますよ」

林田さんの淡々と語る様子を、私はもどかしく思う。

「外国にいるの?」

外国まで仕事に出かけるんだ。

「今は、多分シンガポールだと思います。いろんな意味でグローバルな人ですから」

「そっか。そうなんだ。あの伊村さんが英語で話してる姿、どうしても想像できない」

「そうでしょう?でも、たいしてうまく話せないくせに、ひっどい英語で話して女性を上手に誘うんですよ。どこに行っても、あっという間にきれいな女性を連れてますからね」

林田さんが、今だから暴露しちゃいますけど。と笑いながら教えてくれた。


「そうなんだ。あのルックスだものね。多少性格が狂暴でも、どこにいても相手の女性には困らないんですね」

「全くですよ。世の中本当に不公平で」


「ほんとうに、ありがとうございました」
林田さんが、深々と頭を下げた。


「今頃は、伊村さんも、外国で新たな出会いか……」

「本当、羨ましい限りです」

「何か、伊村さんに伝えることありますか?」
林田さんが唐突に聞いた。

「いいえ。別にないです。ありがとうって言っていただければ」

「わかりました」

エレベーターホールまで林田さんを見送った。





< 127 / 155 >

この作品をシェア

pagetop