私は、エレベーターで恋に落ちる


今度は、本当に殺されるかもしれない。

相当イラついてるけど、本当にいい男。

切れ長の目で睨みつけて来るけど。

ベッドの中なら、そんなふうに熱い目で見つめられて殺されてもいい。

どうでもいいけど、いつまでこんなことしてるの?

さっきから、もぞもぞ体を動かすたびに、お互いの体の隙間がなくなってる。

私の体が、彼の筋肉質で板みたいな体を感じてるってことは、相手も私の運動不足の緩み切った体を感じてるってことだ。

万が一でもつられてくれないかな?

エレベーターで、ちょっとだけ妄想したけど。

抵抗する力を抜いて。

自分から抱きついてみる。

「何してる?」
おお、ちょっと怯んだみたいだ。
軽く胸が当たったくらいで、腕を緩めてくれた。


ここで殺されなくたって、一時に電話できなければ、私の人生は終わる。

「離してください。腕が痛いの」

良かった。
本当に彼は、つかんでた腕を緩めてくれた。

いい感じだと思って、「ありがとう」っていって離れようとした。

でも、甘かった。

彼は、私の頬を両手でつかみ、顔を近づけて来た。

なに?

何されるの?私。

キスされるの?
それとも、頭からバリバリ食べる気?

逃げようと思っても、頭だけ置いて行くわけには行かない。

力づくで、自由を奪われているうちに、私は、この男が本当に怖くなって来た。

だって……凶悪犯が、驚くほどのイケメンってこともあるじゃないの。

恐怖と、仕事を失うかもしれない不安と、これから、どうなってしまうんだろうという恐怖で、胸がつぶれそうになった。
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