私は、エレベーターで恋に落ちる
「伊村さん。カードのデータは間違ってませんでした。
篠原さんに割り当てられたMACデータも、彼女のために、こちらで割り振ったもので合ってますよ」
彼は、ああ、やったいましたねっていう、哀れみっぽ顔して伊村って人のこと見てる。

「どういうこと?」
伊村さんの方が、信じられないっていう顔してる

「一度、紛失で申請が来て、カードを交換してるけど、それ自体はこっちにも記録がある。けど、後に渡したカードが問題だな。誰だよ。こんなもん渡したの」
同僚さんの方が、伊村さんに書類を渡した。


「オールフリーパスの最強カードがなんと8枚も配られてる」
同僚さんが、指でマーカーを引かれたところを示す。

「おい、冗談だって言ってくれ」
伊村さんが項垂れるようにして、かがみこんで手で顔を覆う。

結果だけ聞いただけで、納得できず伊村って男は、プリントされた紙をじっと見て最後にため息をついた。

「単純なミスだよなあこれ。来客用のカードが混じって配られてた。
というか、多分、アドレス振り分けるのミスったんじゃない?多分、こんなケースいくつも見つかると思う」

「信じらんねえ……」伊村さんがうなだれた。

「来客用のカードで受け付けも操作することになってるから、エレベーターだけじゃなく、開閉式のドアも、非常口も、どこにでも止まるし、鍵も開くようになってる」と伊村さんじゃない方が言った。

「誰だ、こんなもん渡したの」伊村さんがうめく。


「渡したのは、これから調べます。でも、渡した相手は分かってますよ。だから、君が勇者になってあと7人の敵を捕まえれば?」


「俺は、関係ない」伊村さんが拒否する。


「全員、大人しくカードを返してくれりことを祈りましょう。まあ、よかったじゃないですか。テロとか、爆破予告とか物騒なものじゃなくて」

「よくない」
同僚さんが、伊村さんの背中をポンと叩いた。

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