私は、エレベーターで恋に落ちる
戸田さんは、腕組みをして黙って私の話を聞いてる。
私は、戸田さんに午前中繰り広げられた、タヌキ親父とのやり取りを説明していた。
「なるほど」
普段なら、戸田さん、説明の合間に微笑んだりしてくれるのに。
今日は厳しい表情のまま、ぐちゃぐちゃになった資料から、必要な書類を選び出して、それを見るのに集中していた。
資料自体は、問題ないはずだった。
全部、戸田さんに許可をもらったものばかりだから。
「これって、俺に説明してくれてたっけ?」
追加と思いっきり手書きのメモ書きが、貼り付けられている。
戸田さんは、その紙を押さえたまま私の方を見た。
みんなが狙ってるだけあって、イケメンだ。
笑ってくれると、すごく魅力的なんだけど。
怒った顔も、やっぱり魅力的だ。
なんて考えてる場合じゃない。
「えっと、追加分ですか?えっと、でしたら、あの、いいえ。通常の単品の発送になりますから、そこにはのせていません。別だと思ったましたから」
イケメンは、静かに目をつぶって腕を組む。
私も、あんなふうに様になったらいいのに。
「終わったことはもういい、でも、うちの事務処理の手続き上のルールなんて、お客さんからすれば、どうでもいいことだよね?
それにさ、棚一つのためにお客さんが怒って、取引止めるって言ったら、全体の利益がふいになってもいいの?」
「もし、戸田さんの言うように、利益でふいになっても、契約上は不利益は被りません。契約解除の際のトラブルは、解除した側に費用負担が発生します」
イケメンがイラついてる。
わざとやってるんじゃないけど。
「いや、違うって。そんな商売してたら、このご時世に商売なんてやっていけないだろう?」
「でも、規則ではそうなってます。規則を守らないから、利益が守られなくなって苦しくなります」
「じゃあ、どうするっていうの?君が一人で営業できるわけ?そんな殿様商売が成り立つと思うの?」
「申しわけありません」
「わかればいいよ」
「はい」
「あ、それからこの件は、ルナちゃんに補佐してもらうから。それに、横田社長には、君の発注ミスってことで丸く収まってるから。そのつもりで」
ええっ?ルナに補佐頼むって、戸田さん正気ですか?