私は、エレベーターで恋に落ちる



終業時刻まで待って、私は、美穂を食事に誘った。

美穂と行くことに決めた店は、ビルの6階にある神戸の老舗の洋食屋さんだ。

私達は、6階まで降りて行き店に入った。
店の中は、白を基調としたカジュアルな雰囲気で、定番の洋食のメニューが並んでる。


私は、美穂に今日起こったことを説明した。


「それで、あんた明日から上の階に行く事になったんだ」


美穂は、批判的でも、同情的でもなく、無表情で話を聞くと、ふ~んと言っただけだった。

「ねえ、もっと感想とかないの?」

「よかったじゃん。イケメンと高級感あふれるオフィスで仕事ができて……」
美穂が投げやりに言う。
彼女は、イケメンなどに興味はないのだ。

「何よ。言いたいことってそれだけ?」

美穂の基準は、よくわからない。

食べ物の趣味以外で、好みが一致することってあんまりないし。


「これだけは言える。あんたが出会った男で、名前を記憶してるのは、間違いなくイケメンだね」
美穂、しばらく考え込んでから言った。
考え込んでたから、難しいこと言うと思ったのに、出て来た言葉がただのイケメンだなんて。

別に、イケメンだけが記憶に残ってるわけじゃないでしょう?


「そんなはずはない。
少しは……あるかな」

その通りかも。

林田さんも名前覚えてるけど、美穂には警備の人って説明した。
美穂に名前を伝えてない。

林田さんが、林さんだったとしても、森さんだったとしても、
私にとってはどうでもいいのだ。


「ちなみに、うちの会社であんたが人を名前で呼ぶの、戸田さんだけだし……」

「それはそうだね。あはは」
だって、戸田さんは特別だから。
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