私は、エレベーターで恋に落ちる
「言っとくけど、あんたの男を選ぶその基準、どうかと思うよ」
美穂は、デミグラスソースのたっぷりかかったハンバーグに、容赦なくナイフを突き立てた。
「べ、別にいいじゃない。言うだけなんだし」
私は、散々迷ってから、注文したビーフシチューをすくって口に入れた。
シチューは、このお店の看板メニューだった。
お肉は柔らかくてトロトロ。
奮発してよかったと思う。
「まあ、あんたがどうなろうと構わんけど」
ハンバーグを口に入れながら言う。
「冷えきってるね。相変わらず。ああ、もしかしたら、美穂たら、私だけ、面白そうな目にあってるの、うらやましいんでしょ?」
私は、これ、少しもらうねと言って、フォークでハンバーグを切り分けた。
「はアア?あんたのどこに、うらやましいと思える余地があんの?」
すかさず、美穂はスプーンで私のシチューにフォークを突っ込む。
「だって、明日から現実の世界とは別の世界に行けるんだから」
足を踏み入れたことのない、世界。
どんな人たちがいるんだろう。
美穂が、ため息をついた。
「あのさあ、いい?よく聞いて。あんたが乗るのは、エレベーターじゃなくて、カボチャの馬車だって事もお忘れなく」彼女は、言い終えて、ナプキンで口を拭う。
「そんなこと言って、美穂はやっぱり、私ばっかりいい思いしたこと、うらやましいと思ってない?」
彼女は、鼻でふんと、笑って言う。
「それは、ないから。安心して。むしろ、一人で行動して、私を変なことに巻き込まないでくれたことに感謝してる」
「どうしてよ。何も起こらないより、何か起こった方が面白いと思わない?」
「私は、あんたのそういうとこ、本当にうらやましいと思うわ」