私は、エレベーターで恋に落ちる

誰もいないエレベーターで27階まで上がった。

習慣で非常口の方に曲がろうとして、足を止める。
その必要がないことを思い出した。

くるっと反対側に向いて、受付嬢のところまで歩く。


「おはようございます」
にこやかに挨拶される。

私は、呼吸を整えて言う。

「B.C. Bエレクトリックの伊村さんお願いします」

フロアの受付で、名前と会社名を告げる。

「おはようございます。篠崎彩弓様ですね。少々お待ちください」

丁寧に頭を下げられる。


「かしこまりました。少々お待ちください」
受付嬢が電話で対応してくれる。


何も、こそこそする必要はない。

誰かが私を、捕まえに来るわけじゃないんだし。

今日は、来てほしいって言われたから来たんだ。

堂々とすればいい。



今日は、受付のお姉さんの目を盗んで、さっと壁に寄る必要もない。

心に、何にも引っかかるものがないとは、どれほど、すがすがしいことか。


その様子を、よく目に焼き付けておこう。

こんな一流会社に、商用で気来て、真っ正面から入ることなんかないかも知れない。
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