私は、エレベーターで恋に落ちる
気の合わないデート
「ジャスト54分だ」
伊村さんが、先にエレベータに乗り込み、ボタンを操作してる。
彼は、早くこっちへ来いと手招きしてる。
私は、言われた通りにエレベータに乗り込み、IDカードをかざして、27階のボタンを押した。
「立ってる位置は、そこだった?」
伊村さんは、私の方を見て尋ねる。
「はい」
はっきり覚えてないけど。
エレベーターですることなんか、いつも同じだ。
「ちょっと上見て」
「はい」
言われるままに上を向く。
彼は、持ってきたタブレット端末で画面を確認しながら私の立つ位置を指示する。
「いや、もう少し壁に寄って」
「ええっ?」
言われた通りに、上を向いたまま体の位置を変える。
言われた通りにやったのに、違うと言われた。
彼は、たまりかねて言う。
「いや、違うって。顔は、ずっとボタンを見てただろ?」
「だって、今さっき、あなたが上を向いてって言ったじゃないの」
「写るかどうか見ただけだ。ああ、ちょっと、時間来ちゃう。向きは、そうじゃないって……」
「ちょっと!何してるの」
「いちいちうるさい女だな、悪い勝手に直すぞ。こっちだ」
と言いながら、私の体の向きを直すために、腰に手を当てた。