私は、エレベーターで恋に落ちる
画面に近づいた。
深呼吸して、もう少し落ち着いてから写真を見た。
伊村さん、ちゃんと防犯カメラの位置を考えてキスしてるんだ。
じゃないと、お互いの顔が写る位置にカメラが来ない。
それが分かると、あのキスに少しドキドキしていた自分が気の毒に思えた。
「やっぱり、クズだ。男なんて」
ウィンドウを片っ端から閉じてやった。
「屑だ。やっぱり」
「ん?」
背後から、声がした。
急に返事が返って来たから、驚いた。
驚いて上を向くと伊村さんが立っている。
「クズとは、聞きづてならないな」
「クズっていう以外に、どんな呼び方があるんですか」
頭の中では、もっとひどい言葉が渦を巻いている。
これだって、だいぶ抑え気味に言ったのだ。
「写真を見たのか?」
「言っとくけど、見ようと思ってみたわけじゃない」
「そう?なかなかよく撮れてるだろう?」
「いい写真が撮れたから、どうだっていうのよ」
「写真は良く取れていた方がいい」
「証拠にするために」
「結果的にはね。弁護士からのメールまで開けてみたんだろう?だったら、弁解の余地はない」