対象外でも恋咲く
弘人はカレー店のガラスドアを引いて、紗和を先に通す。

カレー専門店だけあって、店内は食欲をそそる香りが充満していた。


「スープカレーと、ハンバーグカレーをお願いします」


店員にオーダーして、弘人がメニュー表をテーブルの端に戻す。


「そういえばさ、こうやって二人で食べるの初めてじゃない?」


「え? あー、言われてみるとそうですね」


同じ課にいても、食事を一緒にするほど仲が良くない二人だったので、向き合って食べるのはこの時が初めてだった。

食事をすることがなかったのは、ただ機会がなかっただけかもしれないと弘人は思う。

だけど、実際は違う。イケメン嫌いの紗和が、意図的に仕事上でさえも弘人と関わることを極力避けていたからだ。

紗和は向かいにいる弘人を直視出来ないでいた。弘人の表情や言動に惑わされてはいけないと心の中で自分に言い聞かせる。

やっぱり食事は別にしてもらって、駅で待ち合わせれば良かったのではないかと後悔さえもする。
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