対象外でも恋咲く

「そうか、うん、そうだよね」


弘人は、その気もないのに気を持たせるような言葉で返せないと思い、歯切れの悪い返事をする。

そのとき……


「おはようございます」と瞳が出勤してきた。弘人は、背後から聞こえた声に振り向かないで、「おはようございます」と返す。


「おはようございます。高畠さん、髪切られたんですね。スッキリして似合ってます」


しっかり瞳のほうを向いた紗和は、先週よりも短くなっている瞳の髪に気付いた。

背中の真ん中ほどの長さだった髪は、肩にかかるくらいにカットされていた。

瞳も弘人と同じに悶々とした休日を過ごしていて、このままじゃいけない！と何がいけないのかハッキリとは分からないが、気分転換に美容院へ行ったのだった。

しかし、髪型はスッキリしても心はスッキリしていないのが現状である。

なので、何のためにカットしたのか…と逆に意気消沈してしたから、紗和に似合っていると言われて嬉しくなり、笑顔で「ありがとう」と答えることが出来た。