対象外でも恋咲く
瞳は片付けている最中に床に転がっていたボールペンを拾った。誰のかは分からないけど、フロアに持ち帰って聞けば持ち主が現れるだろうと自分のペンケースに入れていた。

それを弘人へ向けてからクスッと笑う。


「なんか慌てる小沢くん、珍しいね」


「いや、だって、鍵をかけられてしまったら、まず総務に借りに行かないとならないし、そんなの面倒だから急いだんですよ。絶対ここだと思って」


弘人は頭を掻いてから、手渡されたボールペンをワイシャツの胸ポケットにさした。

6月に入り、クールビズが本格的に実施されて弘人も他の社員と同じようにネクタイをしないで、第一ボタンを外している。

瞳は向かい合う弘人の喉仏がよく見えるので、話の中で動くそれを凝視していた。

目の前にいるのに目を合わせない瞳の視線が自分の喉仏にあると弘人は気付く。

そういえば、喉仏フェチとか言ってたな……。


「そんなふうに見られると隠したくなるんだけど」


弘人は苦笑して、喉に手をやる。
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