対象外でも恋咲く
紗和は一段一段、ゆっくりと降りながら、涙を零す。

2回も振られたらもう諦めるしかない。今日、不安になっていた自分の手を握ってくれたから……つい脈があるのではないかと自惚れてしまった。

紗和は踊り場で立ち止まり、上を見る。弘人が追ってくる気配は全くない。

自嘲地味に笑い、スマホをカバンから取り出した、

以前にも今日だけでいいからと食事やデートに自分から誘った男性はいる。今日だけなら……と了解してくれた人ばかりで、弘人みたいにハッキリと断る人は初めてだった。

みんな今日だけと割りきって、食事をしたのだから、デートをしてあげたのだからと体を要求してきた。好きだったから応じたけど、一人になったときの虚しさは半端ではなかった。

そういう惨めな思いをしたのに、また懲りずに同じことを繰り返そうとしてきた自分に気付き、そうさせなかった弘人の優しさに感謝しながら、スマホで発信表示をタップさせる。

表示されているのは紗和の実家。3コールすると「はい、菊池でーす」と明るい声で母親が出てきた。
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