対象外でも恋咲く
弘人は、運転手の声にビクッと肩を揺らして瞳から離れたが、離れる瞬間に「んっ……あっ、ん……」と瞳から悩ましい声が微かに漏れたから、返すのが遅れた。


「お客さーん、聞いてますー?」


「あっ、はい! その先に見える茶色いマンションの前で止まって!」


慌てて返事をする弘人を瞳はじっと見ていた。声を発する時に上下に動く喉仏が気になっていた。


「また、見てる。ほら、降りますよ」


弘人は、瞳の肩を引き寄せてタクシーから降りる。


「ごめん、また見ちゃって」


「いいけど、出来ればもう少し上を見て」


「上?」


弘人に言われて瞳は喉から上を見た。二人の視線がまたぶつかる。


「そう、俺を見てくれる高畠さんの目がものすごく好きなんで、ちゃんと見て……」


弘人は顔を近付けて、またキスをする。何度しても何度もしたくなる。まだここはマンションのエントランスなのに抑えきれない。
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