しましまの恋、甘いジレンマ。
美しい容姿と相まってとっつきにくい冷たさが耐えられない。
正直もう怖いので遠慮して欲しいけれど、
相手はやる気でこっちはその勢いに押されっぱなしだ。
一息ついて、冷静になってくると同時に志真に後悔が押し寄せた。
こんなイケメン幾らで雇った?って絶対言われる。
「じゃあ、明日」
「え」
「明日。仕事が終わったらその足で家を見せてもらえますか」
「……え。あ。は、はい」
あれ、今すぐじゃないの?
「今は不在とはいえ、女性の家におじゃまするわけですからね、
準備もあるでしょうし。そこまで不躾な行為はしませんよ」
「……そう、ですか」
「明日では都合が悪いのなら、良い日を教えてもらえますか」
「あ。い、いえ。明日で結構です」
今までの勢いでガンガン攻めてきて速攻で家に上がり込むのかと思った。
それで値踏みするのかと。
でも案外普通だ。というか、普通に気を使ってくれている?
「それじゃ、そういうことで」
「は、はい」
「これ。俺の分の料金。置いておくので、失礼」
「……あ。はい」
あ、会計は別なんだ。
そういう関係ではないから構わないのだけど。でもこの店を選んだのは彼で、
えらくおしゃれだと思ったけれどメニューも中々に高価でしたが、
そうですよね別ですよね。良かった調子に乗ってケーキとか頼まなくて。
「まだ何か?」
「学校でなんて呼べばいいですか?知冬さん?テオ先生?」
ぼんやりしていたらふと思い出して、慌てて立ち上がり彼を呼び止める。
「どっちでも。どうせ学内で貴方と話すことも少ないでしょうしね」
「それはそうですけど」
「お疲れ様です、山田さん」
そう言って軽く笑みを作り去っていく。
あれはどういう意味の笑みなのかこちらには分からない。
席に戻りちゃんと全部飲んでから志真もお店を後にした。
「……と、いうか。ここ、何処?」
出てからはっと気づく。
全然知らない店に連れてこられたのだから当然外に出ても土地勘ナシ。
母親に電話して迎えに来てもらおうかとも考えたが、笑われたくないので
結局タクシーを捕まえてなんとか家まで帰ることが出来た。
明日文句言ったらタクシー代折半してくれないかな。
「おかえり、ちょっと遅かったわね」
「ひどい詐欺にあって」
「詐欺?大丈夫?」
「うん。大丈夫。あ、そうだ、明日おばさんの家に行きたいんだけど」
「いいわよ。それなら着替えと戸締まりのチェックと冷蔵庫の中とか見てきてくれる」
「わかった」