しましまの恋、甘いジレンマ。
「と、というか…よくみたらって酷くない」
顔を赤らめつつ、部屋に戻り荷物を持って帰る準備をする志真。
知冬は庭をかなり気に入ったようでまだもう少し見ているという。
あの人に出会ってから今まで翻弄されっぱなしで困る。
家の事を母親に話そう。それから相談しておばさんに。
他人を住まわせて大丈夫だろうか、いや、表向きは志真のひとり暮らし。
「また明日」
「はい」
今度はきちんと志真の指定した場所で車をとめて、去っていく。
軽いため息をして帰宅する。両手に荷物で面倒だったけれど。
「え?おばさんの家に?」
「う、うん。どうかな。ほら、家を開けると老朽化しやすくなるって言うし」
「でもあの家お風呂壊れてるわよ?」
「銭湯行くから」
「まあ、貴方がいいなら。おばさんも誰か家にいてくれたほうが安心でしょうしね」
思いの外すんなりと母は了承し、おばさんにも話をしてくれるそうだ。
大丈夫と言うだろうから行くのなら何時でも行ってらっしゃいと。
と、いうことで。
志真が望んだワケじゃないのに巨大なカバンに荷造りをするはめになる。
あの人がおばさんの家で住む以上、
志真がやっぱりやめたのと家に戻るわけにも行かないだろう。
家は欲しかったけどリフォームする前提だったし
まず男が居るなんて話は無かった。
こんな予定じゃなかったんだけどな。
「お父さん、志真が暫くおばさんの家に住むそうよ」
「そうか」
「ひとり暮らしに憧れてたのかしらね?」
「そんな歳か?まあ、たまにはそれもいいだろう」
志真が楽しくない荷造りをしている1階では両親がそんな話をしていて。
夕飯を食べようと彼女が降りて行くと「まあ頑張れ」と謎の励ましをされた。
「水道。電気は通ってるけど、やっぱりお風呂だよな。問題は。隙間風もあるし」
「志真。どうした?顔色が悪いぞ」
「え?ああ。うん。まあ、色々とあるんです」
翌日の昼。席でぼんやりとこれからの自分を想像しては軽い憂鬱を繰り返す志真。
そこへジャージ姿で声をかけてきたのは先日嘘婚約をお断りされた先生。
「スポーツしたほうがいい。お前もテニス部に来るか?」
「いや、まだ死にたくないので結構です」
「それくらいで死ぬなよ。まあ、なんだ。親とは仲良くな!」
ただ親への見栄だけで嘘の旦那を紹介しようとしていると思っているこの男。
体育会系のカラッとした頭なのは子供の頃から全く変わっていない。
まあ頑張れ!とバシバシ志真の肩を叩いて去っていった。
「……脳筋じゃなかったらなあ」
でもあれでかなりモテて、ゲットした奥さんも美人。
神様は本当に不公平。