しましまの恋、甘いジレンマ。
「こんなはずじゃなかったんだけどなぁ」
仕事を終えて一旦家に帰り両手に大きな荷物を持ってまた家を出る。
今日から強制的におばさんの家で暮らすことになるから。
快適な空調もない、一部では隙間風がヤバイ。そして風呂がない。
そんなお家。
欲しいのは素朴なおばさんの家じゃなくてリフォームした方なのに。
ブツブツと文句を言いながら母親の車で送ってもらい家へ向かう。
「じゃあ、よろしくね志真。おばさんは凄い喜んでたわよ。ありがとうって」
「そ、そう。うん。よかった」
「何かあったら電話して」
「はい」
ああ、何でこんなことになっちゃったんだろう。
夜道をトボトボ歩くのがこんなに心細いなんて。狭く細い道を歩き続けおばさんの家に到着。
鍵は預かっているのでこれで開けて入る。
「…やっときた」
「あ。知冬さん」
玄関先に座っていたのは知冬。
「連絡先、交換し忘れてた。最悪」
「ごめんなさい」
「いや。俺も馬鹿だった。ちょっと浮かれてたから」
「え」
「中にはいってもいいですか?近隣の人が俺を不審者として通報する前に」
確かにおばさんが一人で住んでいるはずの家の前に外国人らしき男が
何時迄も座っていたら空き巣なんかに間違えられるかもしれない。
志真は急いで玄関の鍵を開けて中に入る。電気をつけて、荷物を運んで。
「あ。しまった」
「なに?」
荷物を適当な場所に置いて一息、つこうとして志真が声を上げる。
少し離れた所で荷物を整理していた知冬が振り返る。
「夕飯食べてこなかった」
「……」
「カップラーメン持ってきたらよかったな。買いに行くか」
「じゃあこれ」
「え。知冬さんも?あはは、意外におっちょこちょい」
「……俺が持ってきたおにぎりはあげませんから」
「ええっ…お、おにぎり?」
なにそれコンビニの?それとも自前?その顔で握ったの?違和感が凄い。
「行ってらっしゃい」
「……はい。行ってきます」
1人黙々と買ってきたらしきおにぎりを食べている知冬。
志真は財布と携帯を持ってコンビニへ行く準備。
ここからだと15分ほどかかるので気合が必要だ。
ついでにお菓子やジュースも買ってこよう。