しましまの恋、甘いジレンマ。
私たちには足りないものが多すぎる
洗濯機は旧型だけどまだいける。掃除機も大丈夫。テレビも快適。
エアコンは頑張ったら動くけれど、ちょっと怪しかった。
欲しいのは電子レンジ、ケトル、炊飯器。
生活していく上で必要な物は増えていくだろうけど、まずはこれを
買ってこなければ。明日、知冬と仕事終わりに買いに行く予定。
「……ふぅー…銭湯って悪くないかも」
時計をチラチラみながらそろそろ出ないと不味いと銭湯を出る。
自分は銭湯も温泉も好きだから特に抵抗はなかったけれど。
フランス住まいだった知冬はさぞかし驚いただろう。
ジャパニーズカルチャーショックっていうのかな。
びっくりしている顔を想像してちょっと笑う。
「何をニヤニヤしているんですか?」
「あ。も、もう出てきたんですね」
「コーヒー牛乳を勧められましたが時間が押していたのでまた明日にします」
「そ、そうなんだ。美味しいですよね風呂あがりのコーヒー牛乳」
「俺はフルーツ牛乳のほうが好きですけどね」
「知冬さんって日本暮らし長い?」
「15年ほどです。子供の頃」
あ、こりゃ無いわ。カルチャーショックとかないわ。
びっくりしている顔を想像していたのにちょっと残念。
通りで何の違和感もなく男湯に入っていったわけだ。
むしろ先客で入っていたおっちゃんたちがびっくりしただろうな。
「日本語も出来てフランス語も出来て自由に行き来できるなんていいな」
「そうでしょうね。日本は日本国内しか自由にはいけませんから」
「でも国内だって時間かかるし良い場所があるんですよ」
「そうでしょうね」
「……ぅう」
だからなんでそんな冷めた言い方をするんだろう。
志真もあまりオープンな性格ではないからそれで話しづらいとか?
学校ではもうすっかり明るく陽気なフランスの先生と大人気なのに。
私の前でだけ冷たい意地悪なの?
「この国を悪く言った訳ではないですよ。俺の父親の国でもありますしね」
「……」
「貴方のお父さんはどんな人です?」
「優しいですよ、学校の校長をしてました。もう2年ほど前に定年退職しましたけど、
今じゃその跡形もなくだらしないです」
「そうですか」
「はい。知冬さんのお父様は」
「元気でやってますよ。連絡はたまに取るので」
「会ってはいないんですか?」
「会うと面倒なことになるので、あまり会わないようにしています」
「そう、なんですか」
フランスに住んでいたというし、父親は日本にいるようだし。
もしかして離婚したとかかな。じゃあ、あまり立ち入らないほうがいいか。
志真は視線をそらし、他になにかいい話題はないかと記憶を巡らせて。
そのうちに家に到着してしまう。
「どうしました」
「知冬さん、足速くない?」
「は?」
「……いえ、なんでもないです」
「変な事を言う人ですね」
「……」
「お茶を淹れますが、飲みますか」
「はい」