しましまの恋、甘いジレンマ。
「Allow?……、ああ、どうも。ええ、どうにかやってますよ。程々にね」
借りていた部屋をさっさと引き払い両手で済む荷物を持って家に入る知冬。
立て付けがあまりよろしくない箇所が幾つかあって、それを補修もしながら。
そんなことをしているとあっという間に時間は過ぎていく。
そろそろ志真が仕事を終える頃かと時計をみたら電話が震えた。
10分ほど会話の後、軽いため息をして。
鍵を手に外へ出る準備。
「メモをしてきたんです。必要なものを」
「それは賢いですね」
「……で、でしょ」
学校の裏手にある職員用の駐車場、そこの隅で志真が待っていた。
わかりづらいからもっと明るい所で待っていて欲しい所だが、
彼女はコソコソと車に乗り込む。人目を気にしているようだ。
「家電がメインですから量販店に行けば良さそうですね」
「そうですね。あ。あの、私布団も欲しいので」
「書いてますしね。メモに」
「……はい」
さっさと学校を後にして街の大きな電気量販店へ。
布団もそこからそう遠くない所にお店があるから大丈夫だろう。
「この新生活応援セットでよくないですか」
「……」
「なにか」
入り口にずらりと並んだ家電。小さくてちょっとチャチな作りだが値段は安い。
「いえ、あの、てっきりあっちの高そうなの選ぶかと思って」
神経質そうで、食べ物にもこだわってそうで、てっきり。
「こだわったら何か美味しいものでも作ってくれるんですか?」
「あれ。知冬さん料理しない?」
「しませんけど?」
え、しないの?
じゃあ、何で炊飯器欲しいとかフライパンはもっと良いのが欲しいとか…
包丁の切れ味が悪そうだからかえようとか…そんな会話を?
ぽかんとした顔で見上げる志真を知冬は興味もなさそうに無視して値札をチェック。
「……じゃ、じゃあこれにしますか」
「いや、待って。この店では他社よりも高ければ値下げすると書いています」
「はあ」
「20年近く日本に住んでいるスペイン人の知り合いが居るので、彼に聞きます」
「え」
「彼は日本の家電に魅せられた変人なので、安い店を知っているかもしれない」
「……はあ」
いや、でも、これも十分安いですよ?
志真が呆然とする中知冬は電話をかけて何やらスペイン語らしき言葉で喋り始めた。
「ここから1キロほど離れた店のほうが若干安いそうです」
「若干ならもうここで」
「ええ。ここで、値段を下げてもらいましょう」
「……。…えぇ」
知冬は悪い人じゃないと思っている。お金で豹変しない、とも思っている。
でも今少しその気持が揺らいでいる。
お金にシビアだとは思っていたけれど、大丈夫ですよね?
「何ですか」
「生活が出来るレベルの画家さんなんですよね?大変なんですか?」
「別に生活には困ってませんね」
「……じゃあ」
「品質に対して見合った価格ならば購入しますよ。ただ今回は若干高く感じたので」
「……、…そ、そうなんだ」
「山田さんは詐欺に注意しましょう」
「はい…」