しましまの恋、甘いジレンマ。

「ですから昔からお手伝いとかで屋根に登って布団をですね」
「昔と今では違うでしょう。家は老朽化が進んでいるんです。
貴方も子どもではない、底が抜けたらどうするんですか」
「それはそうですけど」

1階へ降りて行ったらすごい剣幕で怒られた。
確かに志真がのったらちょっとくらいはギシギシ言っていたけれど。
でも昔から乗っても大丈夫だったしおばさんも怒らず笑っていた。

けど、知冬は滅茶苦茶怒っている。

「……心臓に悪いことをする人だ、貴方は」
「確かに老朽化はあの頃よりはしてますけどそこまでボロボロじゃ」
「はあ?」
「ご心配をおかけしました。すいません。で、でも、でも馬鹿は酷いです」

彼に一方的に押される志真、でも納得出来ないのでここは粘る。
馬鹿って酷い。確かに頭は良くないけど、あんな大声で馬鹿って酷い。
ちょっとくらい屋根に登ったっていいじゃない、気持よかったし。

「馬鹿じゃなかったら滑稽ですね。いい歳をして何をしてるのか」
「……」

全然悪びれずにかぶせてきた。
確かにいい歳だし子どもっぽいかもしれないけど、でもだって。
あれ、だめだ。やっぱり勝てそうにない。

「貴方に穴を開けられたら困りますし、怪我をされるともっと困る」
「……そうですよね。ここに住めなくなりますしね」

どうせ心配するのはそっちでしょうよ。

でもね

私だって好きでここで同居してるわけじゃないんだぞ。

悔しくて、でも相手に対して文句とか罵声をあびせるなんて出来ない。
彼の協力を得られなければ何もかもが無駄になってしまうわけだし。
そんなひどい言葉を出す勇気もない。彼に反論されたら絶対泣く。

「貴方はか弱い女性なんですよ。危ないことはしないで、心配させないで」

不意打ちのようにそっと手を握られて、恥ずかしいことを真顔で言うから
つい見惚れて志真はハイ、と頷いた。

馬鹿だ。やっぱり私は馬鹿だ。

「……そ、そうだ。知冬さん絵を描くんですよね。私朝食の準備をしますね」

すっかり忘れていたけれど、朝ごはんを食べよう。

志真から手を離し台所へ向かった。

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