しましまの恋、甘いジレンマ。
トースターをセットして、その間に冷蔵庫から卵を取り出し
目玉焼きとも悩んだけれど、ここはスクランブルエッグで。
あとウインナー。適当に余っていたものでサラダ。
スープは出来合いのお湯で作るタイプをマグカップにそそぐ。
それらを100均で買ってきたお皿にセットしてテーブルに置いた。
最初は冗談かと思っていた部分もあったけれど、
知冬さんは本当にマジで何も作らない。
美術的なデザインをすることに関しては天才的なセンスがあるのに
料理は、というか包丁すら握ろうとしない。
彼からの提案で掃除や洗濯、ゴミ出しなどは当番制なのに
料理はずっと志真のターン。
「あ。もしかして私、家政婦?」
志真は知冬を呼ぼうとしてふとそんな事を考え始める。
「どうかしました?」
「……知冬さんは朝食とか今までどうしてたんですか」
「基本、朝は食べません」
「あ。そうなんだ。なんだ、先に言ってくれたら」
「いえ。別にあれば食べます。後はだいたい外食ですね」
大体って、100%外食ってことですよね?
お金ケチってそうなのにそこは気にせず使うのか。
「…知冬さんも何か作れたほうが今後のためにいいんじゃ」
「何かって?」
「えっと。…炒飯とか?」
「……」
「あ。いえ、あの、別に、やれって言ってるわけじゃなくって」
休日はのんびりできるからいいけど仕事のある日の夜は面倒。
事務職員だって会議は参加するし、夜遅くなることだって多々ある。
本音はやってほしいけど、また怒られそうで怖い。
たっぷりといちごジャムをつけたトーストをかじりながら志真は視線をそらす。
「…炒飯、好きなんですか?」
「え。え、っと。ええ、好きです」
「……、…分かりました。検索しておきます」
「検索?」
「今日は何か予定は?」
「母と一緒におばさんの所へ行くつもりです」
「そう。俺のことを話す?なら一緒に」
「い、いえ。まだ、その親にも話してないから。もう少し落ち着いてからで」
流石に何の噂もなかった娘が遺産の話しをきくや即効でこの人ですと
連れてきたら怪しまれるだろう。
それもこんな見るからにお金を握らせて雇ったようなビジュアルの人。
「じゃあ必要なときは声をかけてください」
「はい」
向い合って朝食をとる。自然と知冬と会話が出来る。
といってもまだ怒らせるほうがおおいけれど。
この7日間でだいぶそれっぽくはなってきたろうか?
「何ですか」
「今日はずっと絵を描くんですよね?」
「そのつもりですが」
片付けは知冬がしてくれた。テキパキとあっという間に片付く。
これくらい器用なら料理だってあっという間にマスターしそうだけど。
それからまた庭へ出て行った。
庭にはまだ真っ白なキャンバスとイーゼル。
使い古された味のある画材道具たち一式の入った箱。
「テオ先生の実力拝見」
「さっさと病院へいってください、邪魔です」
「じゃあ帰ってきてから見ます」
「…ご自由に」
こちらを振り返ることなくキャンバスに向かう知冬の後ろ姿を眺めつつ
志真は出かける準備をする。
「あ。私ずっとパジャマだった」