しましまの恋、甘いジレンマ。
コーヒー vs 紅茶
3人でひとしきり話をして、また来るねと言って母親と病院を出る。
おばさんが元気そうでよかったけれど、手術はもう目前。
その本音はきっと大変なんだろうと思う。
でもお互いにそんなネガティブになるような事は口にはしない。
「私もちょっとおばさんの家に寄って行こうかしら」
「えっ…あっ……やめたほうがいいかも。今、掃除とかしてて」
「だったら手伝うけど?」
それはそうなりますけど、でも今家に行ったら絶対びっくりする。
これから紹介予定のニセ婚約者さんが居るのだから。
それもニセなのに志真と一緒に住んでいるとか不味すぎないか。
どうにかして母親の気をそらさなければ。
母は恋愛についてかなり保守的。20歳までは異性との交際は禁止
キスやそれ以上の行為は結婚してからでないと禁止。
20歳はとうに過ぎているしぱっと見て分かる事じゃないから律儀に守る
必要はないのだろうけど。未だに実家住まいでかつ志真の職場での情報も
やろうと思えば教職員という立場で簡単に得られてしまうのが恐ろしい所。
つまりは完全黙秘していなければ何処でボロが出るか分かったもんじゃない。
「ひ、1人で出来ます。子ども扱いしないで。私もう今年で30なんだから」
「どうしたの?そんな風に言う方が子どもっぽいじゃない」
「……ですよね」
やはり母のほうが上手。こんなんじゃだめか。
どうしよう、知冬にメールして「逃げて!」と指示をする?
「じゃあ片付いたら呼んで頂戴。お父さんと行くから」
「わ、わかった。凄い綺麗にするから」
「はいはい」
それで納得してくれたのか母親は笑って志真を家の側におろしてくれた。
事前に来る日がわかっていれば後は知冬に外へ出ていてもらえばいい。
お昼はどうするの?と聞かれて途中で何か買って行くと言ったらこれで
何か買いなさいとお小遣いをくれた。
「やっぱり子ども扱いしてる。……子どもだけど」
コンビニでお弁当を2つ購入し家に戻る。
話が盛り上がってお昼の時間よりも若干時間がすぎた。
知冬はまだ絵を描いているだろうか。
「遅かったですね」
「ちょっと話が長引いちゃって。お弁当買ってきました。どっちがいい?」
荷物を台所へ置いてお弁当を温める前に庭に居た知冬に声をかける。
選んでもらったほうを先に温めて、その間に飲み物を用意する。
準備を終えてリビングへ戻ると作業を中断し座っている知冬がいた。
「手術は何時?」
「3日後。だから、食べ物も今日から柔らかいものへ変わるそうです」
「そうですか」
「当日は仕事を休んで母と病院で付き添うことにしてます」
「……」
「心配だけど、それで少しでも回復してくれるなら」
「……そうですね」
「それで。ですね。その、まずは両親に挨拶をしてもらって。
それから様子を見ておばさんにも挨拶を」
「そちらの都合で決めてください。それで結構ですから」
「わかりました」
お弁当を食べながら話すことではないかもしれないけど、
何のために一緒にいるのかというと、つまりはニセ婚約者さんとして演じてもらうため。
親の前とおばさんの前で。きっと皆喜んでくれるだろう、それで幸せになると。
親の監視もない、仕事や身内のしがらみもないほぼひとり暮らし。
だけど、話し相手が居てセキュリティも安心。
この生活は正直、志真にとっては新鮮で楽しい。
相手にしてみたらただのアトリエで全然違うのだろうけど。
でも、確実に志真の中で何かが変わった。