しましまの恋、甘いジレンマ。
帰さないもなにも、帰る家一緒じゃないですか。
私も何動転しちゃったんだ。落ち着け私。落ち着け。
せっかく淹れてもらったコーヒーを味わうのがメインなのに。
「……」
でも目の前の人に睨まれては全然落ち着けない。
「あの、…コーヒー飲みません?」
「……」
睨みながら飲むのやめてください、怖いです。
「さあさあお二人さん!喧嘩なんかしないでコレ食べて!」
微妙な空気になっている所へ陽気な店主が何やら持ってきた。
注文は食後のコーヒーで終わりのはずなのに、なんだろう?
不思議に思っている志真。
テーブルの真中に置かれたものを見る。
「あ、あの」
「サービスだから!」
お皿にはちょうどいいサイズのチョコケーキ。
トッピングはホイップクリームとチョコソースといちごが1つ。
見るからに外国のコッテリしたケーキ。
「それはとても嬉しいんですけど、スプーンがひとつ足りなくて」
「それはそれでいいんだよお嬢さん!さあどうぞどうぞ!」
GOGOGO!と謎の陽気な掛け声とともに店主は引っ込んでしまう。
他にも居たお客さんは何故かクスクスと笑っているし、目立って恥ずかしい。
そもそも何処へ行くの?スプーンひとつしかないのに?
まさかじゃんけんしてうばい合えとか?それこそ喧嘩になりますよ?
「……ティースプーンで食べようかな」
「俺は要らないのでどうぞ」
「でも」
「そうですね、じゃあ、一口くらい残してもらえれば」
「あ。じゃあお先にどうぞ」
「いや、皿から直に食いつくのはどうでしょうか」
スプーンは渡さずにケーキの乗った皿を彼の前に出したけれどやっぱり駄目か。
どうやって分けようか。クリームが乗っているし手で取るのは無理がある。
「……まさかとは思いますが、あーんしてやれって話じゃないですよね」
そんな付き合いたての学生カップルみたいな事。
志真の頭をかすめて、いや流石にそこまではと思いつつ
でもあのやたらハイテンションな店主ならやりかねない。
「あーん?」
「こ、こう。スプーンですくって食べさせてあげるてきな」
「……ああ。なるほど。ね」
むり、無理無理無理無理。
絶対無理。恥ずかしい。
「や、やっぱりティースプーンで」
「はいどうぞ」
「……」
いつの間にかスプーンを奪っていた知冬がケーキをすくい
志真の口元に持ってくる。食べろと言っているのは明らか。
え、私が食べるの?マジで?
「Bont appeti 」
ああ、これはもう食べないと引っ込まないやつだ。
志真は視線をキョロキョロさせつつ一口で頂く。
「美味しいです。甘いです」
「ほら、もう一口」
「自分で出来ます」
「Bont appeti 」
「うう…はいはいボナペティボナペティっ」
元が小さめだったので最後の一口分までそう時間はかからず、
その最後は予想通りに知冬が食べて終了。
何ですかこの甘い展開は?外国の人ってこれが普通なの?
勘違いするなって言う方が難しいんですけど?
でも相手は顔色一つかえずにやってたから、普通なんだろうな。
志真は終始顔を赤らめて照れまくって自分でも気持ち悪いくらいだったのに。