しましまの恋、甘いジレンマ。


行き先を定め、再び車に戻ると何時も行くスーパーよりは規模のある店へ。
食事の用意をするのはいつも志真だから基本知冬はノータッチ。
だから二人で食材を見て回るのはなんだか新鮮。

「無いですね」
「食用のエスカルゴは日本で手に入れるのは難しいかもしれないですね」
「そうなんだ。その辺のは違うのか」
「貴方は何を食べているかしれない生き物を食べる勇気はありますか?」
「……ないです」

もちろん食用のものであっても人が食べる前には相応の処理をするそうだけど、
でも想像したら気持ちが悪くなった。気を取り直し夕飯の材料選び。

「……」
「やっぱり和食ばっかりじゃ飽きますよね。えっと。ムニエルとか?」

肉の売り場をすり抜けて魚をぼんやりと眺めていた知冬。
これがいい、とは言われていないがずっと眺めているから
どうやら魚が食べたいという事らしい。

魚のフランス流な食べ方って何があるんだろう?パイ?パスタ?

でも今すぐはむりだ、もっとバリエーションがあったほうがいいのだろうけど。
知冬がどんな料理が好きなのか探りたいところ。

「焼くなら塩焼きでいいです」
「え。でももっと凝ったほうが」
「そんな凝ったものが食べたいのなら金を払えばすぐ手に入る」
「……、すいません」

単純な料理だし、そんな美味しくないんだな。私の料理。

「煮込みもいいですよね、魚は」
「でも今から煮込みとなると味が染まないかも」
「そうか。じゃあ、やっぱり焼きましょう」
「……」
「どうかしましたか?」
「……、あの、無理に食べてもらわなくても。口にあわないなら外で」

食費や光熱費も折半できちんと払ってくれているけれど、もし不満があるのなら
食費は返して外で好きなものを食べてきて貰ったほうがいいかもしれない。
その間にフランスの料理でも何でも練習をして見返せるようになってやるから。

「変な事を言いますね。俺はリクエストしたつもりなんですが」
「そんな美味しいものじゃないかも」
「焼くだけなら誰が作ったって美味しいですよ」
「……」
「難しいですね。俺はただ貴方の作るものが食べたいだけです」
「……」
「それとも外で食事がしたいということですか?」
「私は」
「夜は酒が飲みたいと思って家が良かったのですが、確かにデートなら
最後は夜景が綺麗な店で食事のほうが雰囲気があって」
「私は家で焼いた魚を食べますっ」

間違ってもそんなお高いお店になんか行きません。
絶対おごってくれない。何でも折半するんだもん、この人。
あのお昼だってもちろんそれぞれ別で支払いましたとも。

「じゃあこれで」

知冬はカゴに魚の入ったパックを入れて次へ移動。
何処かゴキゲンに見えるのは何故だろう?

わざわざ高い店予約とかしないですむラッキー!

な気がする志真はかなりこの男に毒されている気がする。

「本当に日本でも人気の画家さんなんだろうか…」

画廊に展示されていた知冬の絵は目玉が飛び出るほどの値段だった。
それでも彼の人気や評価からしたら「かなりお得」らしいけど。

「半額か…」
「そんな嬉しそうな顔で半額を見つめないでください…」

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