しましまの恋、甘いジレンマ。
車ありだと多めの買い物をする時楽でいい。
駐車場から少し歩くのが難点だけど、一人じゃないから。
重たいのを我慢して家に帰り、冷蔵庫に食材を放り込む。
最初は殆どすっからかんだった冷蔵庫内も今や食材が豊富。
買い換えた炊飯器も安いなりに仕事をしてくれている。
「酒は好きですか?」
「…甘い?」
「梅酒もあります」
「じゃあそれで。…そんなにお酒買ったんですか?」
「貴方なら甘い方が好きかと思って」
「……ありがとう」
下準備を終えていったんリビングへ戻ると知冬が尋ねる。
志真の好みを考えて選んでくれたのはちょっとうれしい。
テーブルの上には小さいワインのボトル数本と缶の梅酒。
「On prend lapero ce soir ?」
「え?あ、あぺ…ろ?」
「食前酒飲みませんか?」
「…ああ、そういう。はい。頂きます」
つまみも彼が買ってきていたものが置いてある。
好きに食べて良いそうなので完敗をして一口。
「今日はあまり楽しめなかったようなので、何かお詫びを」
「え?いえいえ。全然。楽しかったです。普段行かない所ばっかりだし。
素敵なお店を紹介してもらえたし」
「あまり人をエスコートする経験がないので」
「そんな感じはします」
「難しいですね」
だって朝イチからまさかのファッションチェックのだめだしだもん。
視線があってお互いについ吹き出してしまう。
でも志真にとって今日がとても楽しかったのは事実。嘘はない。
こうして向い合って食前酒を飲んで一日を振り返って笑うのも悪く無い。
「今日親に電話をして、明日紹介させてもらおうと思います。どうでしょう」
「結構ですよ」
「仕事が終わってからだから、6時くらいかな」
「だったら食事を一緒にしましょうか」
「いいですか?そんな付き合ってもらって」
「ご両親ともきちんとお話をしてみたいですしね」
「な、なにを話すんですか」
将来を誓い合った相手を演じて貰うだけで十分。なんですけど。
「いきなり出てきた男が口先だけで婚約者だ恋人だと名乗っても嘘っぽいでしょう」
「…まあ、確かに。親には遠距離恋愛してたということにするつもりです」
「妥当ですね」
「……あの」
「はい?」
「凄い、今更なんですけど。知冬さん、彼女居ます…よね?奥さん?」
本当に今さらだけど、36歳ならもう結婚もしていて子どももいそう。
フランス人の奥さんとか?まさか日本に恋人はいないよね?
演じてもらうだけなのだからそんな所きにする必要はないのだが。
もし、居るのならこの気持を諦めるきっかけになってくれるだろうし。
「妻がフランスに居ます。子どもは二人。俺の帰りを待っています」
「で、ですよね」
ああ、やっぱりいるか。いるよね。もとより何もされてないし
遊ばれた訳じゃないけど。その質問をするのはもっと早くがよかった。
気づいてからじゃ辛いよね。
「そんな所帯じみた男に見えましたか?俺は」
「え」
「パートナーは過去に何人か居ましたけど、籍は入れてませんよ。
その予定もない。そもそも子どもは嫌いなので今は必要性を感じませんし」
「……そうなんだ」
あ、どうしよう。嬉しい。
「貴方は学校の職員さんですが、子どもは好きですか?」
「実は苦手です。可愛いとは思うんですけど」
「良かった」
「え?」
「A votre sante」
「…か、…乾杯」