しましまの恋、甘いジレンマ。
子どもじゃないんです
大丈夫。言うことはちゃんと考えてある、メモもしてる。
深呼吸をして、いざ。
『どうしたの志真。こんな時間に?』
「あ、うん。…実はお母さんに言わなきゃいけないことがあって」
『なに?』
「その。実は私結婚を前提に遠距離恋愛してる彼氏がいるの」
『博多とか沖縄?北海道?』
「ち、ちが。フランスなの」
『あらまあ。それは遠いわ』
信じてないのか若干電話の奥の母が笑っている気がする。
そりゃたしかにいきなり外国人の彼氏とか言い出したら
普通は嘘とか冗談ととられるだろう。
志真は生まれて一度も海外なんて行ったことはないし
彼氏を親に紹介するなんてことも一度もしたことがない。
「実は来日してくれてて。そ、それで。二人に紹介したくて」
『だったらおばさんにも紹介してあげましょうよ。手術前に』
「だ、だいじょうぶかな」
『結婚式に出るまでは絶対死ぬもんか!って奮起してくれるでしょう』
「……それは困る」
だって結婚式する予定無いんだもん。そもそも、付き合ってないんだもん。
『明日病院で落ちあいましょう、貴方は彼氏さんといらっしゃい』
「…うん」
『そう。フランスなの。へえ。…ふふふ』
「わ、笑うことないんじゃない?私だって色々と」
『わかってる。じゃあ、またあしたね』
「はい。おやすいなさい」
そんなボロがでるほど会話してないし本人にも会わせてないのに
遺産のためにお願いした人だとバレバレだったかな。
母のあの感じからしてマトモには受け取ってくれてなさそう。
ちょっとくらいは信じてくれたっていいのに。
途切れる事無く彼氏が居るような女だったら信じてくれたかな。
そんな自分も想像できないけど。
「風呂、行きましょう」
1階へ降りると待っていた様子で知冬が声をかけてくる。
すっかり近所の銭湯を気に入っていてよく話をする人も居るらしい。
気難しい芸術家さんのように見えて意外に溶けこむのは早いのかも。
銭湯までの道を二人で歩きながらふと思う。
「そうだ。明日、おばさんにも紹介したらって言われたので。いいですか」
「構いませんよ」
「知冬さん、話し上手だから。画家さんってやっぱり皆さんそうなんですか?」
「他はどうでしょうね、俺は仕事がなかった頃に街でスケッチや似顔絵を売っていて
客に興味を持ってもらうためと愛想笑いや大げさなリアクション、何でもしました」
「なるほど。それで外面はいいんだ」
「……」
「あ。いえ。あの。初対面の人とでも打ち解けやすいって羨ましいな。
私は仲良くなるのに時間がかかるんですよね。でも職員って年度が変わると
他校へ移動するから、仲良くなっても離れてしまって」