しましまの恋、甘いジレンマ。
2,3年もすれば先生も職員も変わっていく。
何となくいい感じになった先生が居ても、なんとなくのまま移動して
気づいたら既婚者になっていたなんて事はよくある。
それ以上に志真にとってこの移動は憂鬱だった。
無事に事務職員として採用されてしばらくして父親は定年を迎え、
まだまだ現役だった母親といつかち合うか。
嬉しいことにスレ違いが多くて一度も一緒の学校だった事はなかったが。
親と家もプライベートも仕事までも一緒だなんて怖すぎる。
「仲良く、ですか」
「はい。あ。でも、違う学校との合同会議とか球技大会とかの日は
顔を合わせるので話が出来て楽しいですね」
「……」
にこっと微笑んで隣をみたらまた微妙な顔をしている知冬。
何か不味い会話をしてしまったろうか?
そんな悪いことを言った覚えはないけれど、ここは話をかえよう。
「明日はおばさんと両親に話をして。うまくいくといいな」
「そうですね」
「私嘘とか苦手で、すごい単純な人間だから。…そこだけ心配」
あの母親の様子からしてもうすでにだめっぽいけど。
もしつつかれたら開き直ってやればいいか。
おばさんにさえ内緒にしてくれたらそれでいいのだから。
「そう深く考えることでもないでしょう」
「…そう、なんですけどね。心配症ですよね」
なんだろう、その日のためだけの人と言ってもいいはずなのに。
その日が来るのが嫌な自分がいる。
欲しかったはずのお金と家が手に入るのに。
それよりもこの今の生活のほうが楽しいなんて。そんなの無理なのに。
出来るわけないのに、彼はどうせいづれ遠くへ行ってしまう人だ。
でもフリーと聞いて喜んだ。ああ、単純な私。
「じゃあ後で」
「あ。はい。後で」
ひとりで考え込んでいたら銭湯に到着。
男女で別れて中に入る。昔からの古い銭湯。
子供の頃に一度行ったきりだった。
思い返しながら体を洗ってのんびり風呂につかって。
「……」
「ど、どうしました?知冬さん」
出てきたら見るからに怒っている彼が居た。
なんだろう、本当に激怒しているのが分かるくらい顔が違う。
もしかして出てくるのが遅かったかな?でも何時もと同じ時間なのに。
「……今、佐野さんから聞きました」
「え?佐野さん?どなた?」
「いつも話をする爺さんです」
「は、はあ」
「番台というあの入り口にいるジジイ」
「はい。え。ジジイ?」
「女湯も見ることが出来るそうじゃないですか」
「あ。はい。そう、ですね。え?」
何、どうしたの?何でそれでこんな凄い怒ってる?
俺も見たいとかの怒りではなさそうだけど。
「何がロマンだ。ふざけている」
「そ、そんな怒らなくても」
「貴方はそれでいいのか」
「別に…お爺ちゃんだし…競馬新聞ばっかり読んでるし」
耳が遠いからお湯がぬるいと言っても聞こえてないし。
「………俺の志真」
「え?」
「風呂は今後考える必要があるようですね。行きましょう」
「え。え。え??ちょ、ちょっと待って知冬さんっ」
一方的に怒ってさっさと家に帰ってしまう知冬を慌てて追いかけて。
話を聞こうとするが結局何も言わなくなってしまいウヤムヤに。
「馬鹿か……、…はぁ…酒が入りすぎた」
「お水いります?」
「…自分で適当に飲みます」
「はい」