しましまの恋、甘いジレンマ。
貴方ともう一度、はじめから
目に大粒の涙を溢れさせながら志真が病院から居なくなって、
慌てた両親と知冬が追いかけて探しに出たけれどもう姿はなく。
彼女の行きそうな場所、友達の家、実家、そしておばさんの家。
何処へ行っても彼女はおらず、時刻はいつの間にか夜遅く。
何度電話をかけてみてもメールをしてみても返事は全く来ない。
「来てくれると思ってた」
「……体は大丈夫?明日から絶食になるって」
「食べ物が満足になかった頃を思えばなんてこと無いわ」
周囲を確認しながらコソコソとドアを開けて入ったら、こうなることが
わかっていた様子でニコニコと微笑みここに座ってと手招きされる。
他に母たちが隠れているということもなく、おばさんと志真の二人きり。
「私こそおばさんの家とお金に目がくらんで騙そうとしたのに、
私が間抜けだっただけなのに。大事な手術を受ける人の前で
叫んだりしてごめんなさい」
「志真ちゃん、沢山泣いたのね。目が真っ赤」
出来るだけ顔を見られないようにしたいけれど、やはり駄目だ。
ここへ戻っておばさんと話すと決めた以上、どうせ避けられない。
明日にしようかそれとも手術が終わってから経過を見て行こうか
迷いに迷って、でももし何かあった時のことを考えて今夜にした。
自分が騙されたって悲しいだけだけど、おばさんの場合は命に関わる。
「見苦しいから本当は電話とかのほうがいいかって思ったけど、病院だし」
「優しいのね。そんな貴方だからおばさんはおせっかいになってしまった」
「え?…もしかして、おばさんが知冬さんに何か」
でも、おばさんとフランスの画家さんにそんな接点があるようには。
「彼のお父さんがね、私の教え子なの。私が入院した事を何故か知ってて。
お見舞いにきてくれて。その時は私もちょっと弱気になっていて、
つい話してしまった。私の唯一の心残り。
こんなに可愛くて、優しい貴方の花嫁姿をみれないまま死ぬのかって」
「そ。そんな。…わ、私だっていづれは。たぶん。おそらく」
「そうね。その通り、志真ちゃんはまだまだ若い。けど、まるでドラマのような
出会いがあってもいいでしょう?」
「……」
志真に遺産の話が持ち上がって、得るためには婚約者さんが必要で。
そこにタイミングよく現れたイケメンの美術講師。
偶然話を聞いて志真に偽装の契約を持ちかけてきたと思っていたけれど。
この出会いはおばさんと彼の父親の間に交わされたもの。
どこまでが嘘でどこからが本当かは分からないけれど、ひとつ分かるのは
そこに知冬さんの気持ちは入ってないということ。
「でも結局、志真ちゃんを傷つけてしまった。おばさんのせい。ごめんなさい」
「ううん。私、昔から人に言われないと動けない人間だから。気づけないから」
嘘の話で1人で悩んで、仕込みのイケメンさん相手に踊って浮かれていたんだ。