しましまの恋、甘いジレンマ。

「ほら。おばさん、志真ちゃんのお父さんとお母さんの間も取り持ったし
お見合いも一度くらいはいいかなって思っちゃって。
でもお母さんに聞いたらそういう話をするとすぐ逃げちゃうって言うから」
「こんな壮大なお見合い聞いたこと無いよ」

予定が狂ったと最初は不安で怖かったけど、何もかもが新鮮で刺激的で。

ドキドキして、ハラハラして。でも止めたくなくて。楽しくて。

だけど志真が見合いと言われても全然ピンとこないように、
知冬も全て知っていて近づいてきたのに志真を口説くようなことはなかった。
志真では女性として見合い相手として興味を持たれなかったのだろう。

笑いたいのに力が入らなくて、結局乾いた笑みを浮かべる。
自分では笑っているつもりなのに。
何故か景色が、おばさんの顔が歪んで見える。

そうか、私こんなに泣いて落ち込むくらい知冬さんが好きだったんだ。

本気で恋するってこんなに胸が痛いのか。

「泣かないで志真ちゃん。こんな時だけど、貴方に紹介したい人が居るの」
「も、もう大丈夫。なんとかするから。大丈夫……だから」

頼まれて近づいてきた人に勝手に恋をして、今その恋が終わったばかり。
もうこれ以上傷をえぐらないで。耐えられない。
俯いて肩を震わせる志真のすぐ後ろにいつの間にか人の気配。
でも志真はそれどころではなくて。おばさんはその気配に軽く頷く。

「えっと。こんなおばさんが代わりでごめんなさいね、この子の名前は山田志真。
何をとっても花丸印の本当にいい子なんですよ」
「…おばさん?」
「志真ちゃん。こちらは嶋知冬さん。ちょっと年上だけど、画家さんでしっかりしていて
貴方にとってもお似合いだと思うの。どうかしら?」

おばさんが抱きしめてくれて、頭を撫でてくれて。
振り返ってみて、と小さい声で言われて。

「……」

そこで初めて、後ろに知冬が居る事に気づいた。

「さあ。ここからは若い二人でゆっくり話してみて」
「……でも」
「志真ちゃんが来てくれる30分ほど前に彼が来てね、色々と教えてくれたの」
「……」
「内容は直に聞いたほうがいいでしょうね。ほら、志真ちゃん。頑張って」
「……私は」
「消灯時間過ぎちゃってるから、それにもうおばさん眠いの。寝かせてちょうだい」
「あ。ごめんなさい、…じゃあ。また」

おばさんに無理はさせられない、けどどうしよう。

二人きりでなんて居づらい。話しづらい。

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