しましまの恋、甘いジレンマ。
知冬はキスで満足したのか再びパソコンで何か作業をしはじめ、
それが終わると庭へ出て絵の続きをする。
志真もまだ少し顔が熱いけれど平然を装いつつお掃除の続き。
まだ家に行くまでは時間があるし、廊下に出しっぱなしの荷物。
志真は思い出して慌てて片付ける。
「もう契約なんてしなくてもいいのにな」
でもその辺を曖昧にしないではっきりとさせておいたほうが良い。
だって朝母と電話した時、
知冬との関係を知った上でしっかりと釘を刺された。
「わかってると思うけど、セックスは結婚してからよ」
と。
わかってます、わかってますとも。
10代の授かり婚などが珍しくも無くなってきた今の時代で
そんな考えはもう古いのだろうし、
そもそもそれを30になる娘に言うのもどうかと思うけど。
でも、すべてを捧げるのならやっぱり旦那様がいいかなあと。
その辺はお真面目一家に生まれた娘なのかもしれない。
いや、まだ何も決まってないんですけどね?
「知冬さん。お願いがあるんです、これ片付けてもらっても」
「いいですよ。何処に?」
「あの上。ちょうどいい台がみつからなくて」
「ああ、なるほど。わかりました」
「中断させてしまってごめんなさい」
「いえ。構いませんよ」
何とか自分でしようと思って試行錯誤してみたが届かない。
知冬を呼んで指差したのは床の間の天袋。
志真よりも背の低いおばさんだからきっと何も入ってないだろう。
そこに昔の思い出の品とか使わないであろう物をしまい込む。
「ありがとう、背が高くて羨ましい」
「そうですか?日本で暮らすにはあまり良いものでもないですけどね」
「え?あ。天井が近いとか?」
「そこまで俺は巨人じゃないです」
「そうですよね。ごめんなさい。…ふふ、…ふふふふふっ」
男の人はこんな時頼れていい、なんて後ろ姿を眺めて。
つい想像して笑ってしまう。
「楽しそうで何より。すみませんがお茶を淹れてもらっても?」
「お茶、というのは日本茶でいいですか?コーヒーもありますけど」
「ええ。それで結構です。実は和菓子を貰ったので」
「わあ!和菓子!何ですか?お団子?お饅頭?」
ちょうど甘いモノが食べたかったからテンションが俄然上がる志真。
片付けも今のでやっと一段落ついた所だからご機嫌にお茶の準備。
「魚の形をしたお菓子だそうです。温かいうちに食べる方がいいそうですが」
「たい焼き?」
「たい?…なんだ、焼き魚ですか」
知冬は自分の持っているカバンから袋を取り出し志真の前へ置く。
「名前ですよ。そういう名前のおやつ。やったーあんこ大好き」
「……」
「知冬さんもしかして嫌い?」
「志真。契約に付け加えてもらってもいい?」
「はい。え。なにを?え?」
なんだろう真面目な顔をして。
あんこをおやつに出さないとか?
「君は簡単に好きだと言い過ぎる。だから、俺以外を好きとか言わない」
「は!?…そ、そんな。え?じゃあ、あんこ大好きだめ?」
「だめ」
「ご飯大好きも?お風呂大好きも?お昼寝大好きも?」
「全部だめです許しません」
「…知冬さん大好きは」
冗談かなって最初は思いたかったけれど、違うこれはマジなやつだ。
だって知冬さん全然笑ってないんだもの。
真面目なマネージメントの相談でもしているかのようなキリッとした顔で。
「それはどうぞ好きなだけ言ってください」
えー……。