しましまの恋、甘いジレンマ。
紹介します
「…知冬さんって意外に怒りん坊なんだな」
飲み終えた湯のみを片付けながらぼやく志真。
今までも不満らしきものがあると無言でムスッとしてしまうことが
多い人だったけど。まさかあんこに怒るなんて思わなかった。
交際するにあたり怒りっぽい所が表面に出てきたということだろうか。
「ま、まさか…DVとか…ど、どうしよう」
あの大きな手で殴られたら絶対痛い。死んでしまうかもしれない。
ちらっと庭を見るとまだ絵を描いている後ろ姿。
最初こそ好奇心で覗いてみたりしたけれど、今は邪魔しないように
出来るだけ離れてみている。
とっても素敵な後ろ姿なのに、どうしよう。ちょっと怖くなってきた。
「何処へ行くんですか」
「…二階へ」
「二階へ?どうして?もう今日は掃除は終わったんでしょう?」
「……そうですけど。ほら、家に帰るし」
こっそりと二階へ逃げようとしたら何でバレたのか知冬に飛び止められた。
「志真。家に帰るんですか?ここには戻らない?」
「……あ。そ、そっか。どうしよう」
全部仕組まれた事だったわけで、おばさんの遺産も家を貰えるという話も
嘘だったに違いないから、志真がここにいる必要は無いわけだ。
知冬とはこれからも付き合いをするので偽装ではなくなったけれど。
もしかしたら両親もそのつもりで「帰って来るんだろ?」と言ったのかも?
「……志真」
「そ、そんな寂しそうな顔しないで。……わかった。一緒に居る」
だけど、親の監視下から離れた世界でも楽しく暮らしていけると知った。
大変なことは多いし時々寂しくもなるけれど、でも一人じゃない。
彼がこんなにも必要としてくれているのなら側にいてもいいかな。
ご飯とかお茶とか用意してあげないと100%外で済ませる事になるし。
あ、でも距離は取らせていただきますけどもね。
「良かった。駄目だと言われたら君をさらって閉じ込める予定だった」
「何ですかそれ?あははは。もう、犯罪ですよ?怖いなぁ」
「そうですね、怖いですね。…よかったですね」
お互いに笑い合いつつ、
何が良かったんですか?
とか聞いたら夜眠れなくなる気がするから聞かない。
「え、え、と。あの、母には知冬さんも来ることを話してるんですけど、
でも私夕飯の買い物をするので、家で待っていただくかそれとも」
「一緒に行きます」
「母も一緒ですけど」
「荷物が多くなりそうだし、男手があったほうがいいでしょう」
「助かります」
「だから、志真。…もう少し時間があることだし」
「無いです。ナイナイ!これ以上きちゃ駄目っもう行きますよ!早めの行動大事!」