しましまの恋、甘いジレンマ。
知冬の大きな手。この手から繊細で美しい絵画が沢山生まれている。
作品はまだ連れて行ってもらった画廊の1つしか見たことがないから、
今庭で描いている絵の完成がとても待ち遠しい。
学校でも生徒にねだられて描いているそうだけど、やる気は無いそうで。
「知冬さん。私にも絵を教えて」
「1時間1000円で請け負いますよ」
「あ。いいです。やめときます…市民会館の無料お絵かき教室行きます」
5時を過ぎ、少し早いけれど母と合流すべく知冬の車に乗り込む。
助手席に座ってさげりなく彼の指を見ていた志真。
ちなみに彼女の絵の才能がどれくらいかというと机に置き去りになっていた
クレパスの落書きを見た知冬が「下手ですね」とさらっと言って捨てるくらい。
「他では1時間1万で請け負っているのでかなり安いと思いますけど?」
「そもそもお金取るなんてひどい。私はちょっと教えてもらいたいだけなのに」
「じゃあちょっと教えてあげるかわりに軽く脱」
「脱がない」
「モデルをしませんか?」
「絶対やだ」
軽く脱ぐってなんですか?
モデルってあれでしょ?脱げって言うんでしょ。
無理。絶対無理。
「……頑なだな、志真は」
「頑なですよ」
「……」
あ。黙った。むすっとしてる。
「……知冬さん。…後でちょっとだけキスしよ」
あまりにも拒絶しては悪いかなって思ったので志真なりに妥協した。
「場所を探しましょうか」
あ。すごいやる気だこの人。
予定のルートを外れ10分ほど無心で場所を探し、
車をとある商業ビルの地下にある駐車場に停める。
「ひっ…ひええっ」
平日の微妙な時間帯。地下で暗いし人は居ないしお隣さんは真顔で怖いし
何が始まるのかとハラハラしていたらいきなり座席が後ろに倒れて、
変な悲鳴を上げる志真。シートベルトはしたままで寝かされるなんて
とても危なっかしい気がする。
「あまり土地勘がないので、お待たせしてしまって」
「い、いえ。あの。そんな急いでない…」
私、後でって言ったよね?ちょっとだけって言ったよね?
確かにまだ時間はありますよ?ありますけどこんな急がなくても。
焦るけれど身動きは取れず再び知冬が上に来て志真を見つめている。
「まだ行っても来ていないでしょうから、時間を潰せる場所を探してました」
「…なるほど」
「ああ、そうだ。何か手土産でも買っていきますか?」
「え?」
「ここ、色んな店が入ってますから。買えますよ」
「…あ。…そういう?」
キスされるんじゃなくて、実家へのお買い物目的?
それなら安心だけど、でもじゃあなんで座席倒れたの?
「後でね」
「あ。はい。…ですよね」
予定の時間よりずっと早く家を出たのに、
30分も遅刻して母に怒られた。