しましまの恋、甘いジレンマ。
知冬と多少の面識はある母親は驚くこともなくすんなりと彼を迎えてくれた。
スーパーに入り、カートを引いてあちこち歩き買い物を終える頃には
大きな袋3つ分という今までで最高の量に。
「ねえ、あの子の何処が良かった?母親が言うのもなんだけど、
貴方が家の志真を気に入るとは思わなかったから驚いてるの」
志真に適当なダンボールを持ってこさせている間、母親が知冬に尋ねる。
娘を低く見ているわけではない。ただ、画家として成功し目も肥えている
はずの青年が飾り気のない純朴すぎる志真を気に入る理由が知りたかっただけ。
「何処…というよりも彼女を他の誰かに取られるのが嫌なんです」
「あら情熱的」
「そうですか?自分では冷静な方だと思っていますけど」
「確かに冷静かもね。こっちを持ってくれる?」
荷物を3人で分担して車に乗せたらそのまま志真の実家へ。
母いわく、父親へは事前に連絡をしないほうがいいそうなので。
志真は若干の不安を感じながらもそのまま帰宅。
「……え?」
そして、志真が想像した通り。
父は知冬の存在に目が点になって暫し固まっていた。
構わずリビングへ向かい夕飯の準備をして、お酒を飲み交わし。
きちんと両親の前で知冬との交際を宣言した。
「あはははは!見た?お父さんのあの顔!ぽかーんってしちゃって!」
「お母さん笑いすぎ」
食後のデザートも食べて後片付けをしている母と手伝う志真。
父親のリアクションがよほどツボだったのか母は笑いっぱなし。
「おばさんの縁結びがここまで成功するとはね。良かったわ」
「お母さんもだもんね」
「そう。お父さんのお姉さんの担任だったの、おばさん」
「先生ってほんと凄いね」
「そりゃ沢山の子どもの成長を促し見守る仕事だからね。縁も多いのよ」
おばさんが先生として慕われているから出来た縁。
志真と知冬の縁もそうだ。せっかく出会って気持ちが通じたのなら、
出来ればずっと続けていきたい。と、志真は思っているけれど。
「…あ、あのさ。お母さん、遺産の話なんだけど」
「ごめんね、あれは嘘で」
「うん。わかってる。でも、家にはもう少し居てもいい?」
「いいわよ。おばさんも手術が終わったって暫くは戻れないんだし。
ただし、志真。知冬君を部屋に入れるのは禁止だからね」
「え?」
なに?どういう意味?
「当たり前じゃない。結婚前に一人しか居ない家に男を入れるなんて」
「え。え。で、でも」
知冬がおばさんの家に住んでいるの知らない?
「まさかもうセックスしちゃったんじゃ」
「し、してない。してないよ」
「そう。ならいいけど。この際キスは仕方ないけどね、お互いに大人なわけだし」
「……」
これまでの言葉から察するに、あくまで両親が関わっているのは
ニセ遺産話をすることと、仕組まれた見合い相手となる知冬の存在。
志真が遺産の為に用意したニセ婚約者としてまんまと彼を選び、
そのまま本当の恋人としていい感じになったという認識のみということ。
知冬がおばさんの家に志真と住んでいる事は知らない。
てっきり彼の行動は全部皆に筒抜けで笑われているのかと思っていた。
知冬も道筋を作ってもらっただけで後は自発的な行動だと言っていた。
それって結構最初の方から私を気にしてくれてたってことですか?