しましまの恋、甘いジレンマ。
嬉しい、かも。
でも勘違いかも知れないから、恥ずかしいから心にしまっておく。
よく考えたらあの母親がそんな話を知ったら即効で帰って来いと怒るはずだ。
いくら仕込みだったからって、
結婚前の男女が一緒に住むことを許すはずがない。
今やっとキスの許可がおりたところなのだから。もう遅いけど。
ということで今後はさらなる警戒が必要ということだ。
「志真。ちょっといい?」
家に戻る前に適当に雑誌でも持って行こうかと自分の部屋に戻り
ガサガサしていたら部屋をノックされて、母親がはいって来た。
「なに?」
ちなみに1階では知冬と父が無言でテレビを観ている。
「これ」
母がドスンと志真の前に出したのは本、ではなく太いファイル。
古いものから新しい物までずらりとファイリングされた通帳たち。
「なにこれ」
「遺産の話は嘘って言ったでしょう?」
「うん」
「正確に言うと、もうすでに貴方のものなの」
「なにが?」
「一億」
「…は?」
「見てご覧なさい、全部名義は山田志真でしょ」
「は?は?…え?は!?」
言われてファイルをペラペラとめくると確かに全部志真名義。
もちろん自分でやったわけじゃない。
両親が多少は志真のために貯めてくれていそうだけど、
それにしたってこんなに大量の通帳分ではないはずだ。
「おばさんはずーっと昔から志真の名前でお金貯めてくれてたの」
「……」
「何故か私の名前でもしてくれてたけど。私は要らないから貴方のものよ」
「ま、まって。そんな」
「家もね、志真に是非貰って欲しいって。もちろん強制するわけじゃないけど、
権利は貴方に渡すそうよ。好きにしてって」
無理をして婚約者なんて連れてこなくたってはじめから全て志真のものだった。
自分名義の通帳の束を目の前にしてその事実を聞いて、呆然とするけれど。
何故か涙が出てきた。
「そんな…してくれなくても…私、…どうしよう」
「ほんと変わってるわよね。自分の好きなもの買えばいいのに。
私が持ち続けるのも正直重荷だから、これはもう貴方が持ってなさい」
「こ、こまるよ急にそんな」
「通帳とハンコも入ってるからね、無くすんじゃないわよ」
「怖いこと言わないでお母さん持っててよ」
「嫌よ。人の金を預かるのって結構しんどいんだから」
「そ、そんな」
こっちだっていきなりそんな大金渡されてもどうしようもないじゃない。
おばさんの家に金庫なんてないし。
「持参金は用意したし、後は知冬君がどうでるかね」
「え?」
母親がすっきりした顔でさっさと部屋を出て行ってしまい、
志真はファイルをカバンに詰め込みオロオロしながらも1階へ降りる。
どうしよう。外で強盗とかに会ったらどうしよう。危ない怖い。
銀行に預けにいこうにももう閉まっているだろうし。
「志真?」
「知冬さん。そろそろ帰りましょうか」
「分かりました。顔色が悪いですね?」
知冬に声をかけて帰る準備。お見送りは母と、母に強引に引っ張ってこられた父。
また何時でもいらっしゃいと笑顔で言ってくれた。
「うちの両親、どうですか?外国の方とかあまり慣れてないから、失礼があったかも」
「そうでもないですよ。ただ俺が志真と婚約したいと言ったらお父さんに睨まれました」
「はははは。やっぱり?お父さんたらもー……、婚約?」
なにそれ初耳なのですが。
「俺は志真と婚約がしたいです。あくまでそれは過程であって、最終的には」
「まってまって。え。え??」