しましまの恋、甘いジレンマ。
「あ、あの」
「テオ先生!ここに居た!皆探してたんですよ!もー」
「ああ、ごめんなさい。すぐ行きます」
「……」
「では、後ほど」
突然現れた美術講師。流暢に日本語を話すけど、いったい何処の国の人?
今朝は家のことを考えてしまって途中から全然話を聞いてなかった。
これが校長にバレたら大目玉だったけれど、今のところ大丈夫そう。
あのテオという人にはバレていたようだけど。
「テオ先生?ああ、フランスじゃなかった?」
「へえ。芸術の本場って感じですね」
「校長の知り合いのツテとかって聞いたけど。モデルのような綺麗な顔立ちよね」
「さすが新野先生詳しい」
今更ではあるけれど本人にあまり根掘り葉掘り聞くのは悪いだろうと
懇意にしている養護教諭に聞きに行く。が、どうやら今日は合コンをする
日のようで彼女もあまりしっかりとは聞いていなかったもよう。
彼は生徒たちの人気を独占しそうな雰囲気。
日陰に生きる自分には関係はなさそうだ。
ただ、あの言葉が本当なら。冗談でないなら。
「どうかした?気になるの?珍しいですね、山田さんが気になるなんて」
「そういう訳ではないんですけど」
「競争率かなり高いと思うから頑張れ」
確かに今まで見た誰よりも綺麗だった。物腰も柔らかそうだし、
心臓が高鳴ってハッとしたけれど、年甲斐もなくときめいちゃったけど。
私は争いを好まない、ことなかれの、しがない事務員ですから。
いや、それを打破するための1歩を踏み込みたいんだ。
「はぁい。山田先生」
志真が定時を迎え、準備を整え帰宅しようと学校の裏手に出る。と。
ずっと待っていたようであのテオがこちらに向かって手を降っていた。
「先生じゃありませんから」
「スミマセン。山田さん」
「……それで、その」
「まあまあ、お話は車の中で」
車も持ってるんですか?なんなんですか、貴方。