しましまの恋、甘いジレンマ。
「……私が落ち着かないとね」
時計を見てたちあがる。上司には事前に話をして了承を得ていて、
理解があってよかったと思ったら校長も教頭もおばさんを知っていた。
先生の世界は広いようで狭い。
学校を出る前に知冬に一声かけようと探したら今日も今日とて
生徒に囲まれて大変そうだったので何も言わずに病院へ向かう。
携帯に「いってきます」とだけメールをしておいたけれど。
母はすでに病院に到着しておりおばさんに付き添っているらしい。
志真も病院に到着すると足早に病室へ。
「待てや兄ちゃんここ病院やぞ電話するんやったら向こうでやらんかい」
「す、すいません…」
言っていることは最もだけど、見るからにその筋の怖い人だ。
もしかして親分とかが入院しているのだろうか?
見てない見てない、私は何も見てないです。
志真は速度をさらに早めエレベーターが開くのを待つ。
「ああ、待ってな姉ちゃん。俺も上行きたいんや!」
「……は、はい」
どうやら目的は同じだったようでするりと中に入ってくる怖いおじさん。
病院は人がいっぱい居るのに、こんな時に限って二人きり。怖い。
知冬にも一緒に来てもらったら良かった。
怖いくせに好奇心が勝ってしまったのか、志真はチラっとお隣を見る。
大柄な体に日焼けしたスキンヘッド、
日本人離れした彫りの深い厳つい顔にサングラス。
脇にはクロコ柄のセカンドバッグ。
服装はそれほど奇抜じゃないけど十分すぎるほど怪しい。
「姉ちゃんも3階かい」
「は、はい」
「おっちゃんも今日知り合いが手術あってな。仕事も全然手ぇつかんで来てしもた」
「そうですか」
親分の手術?お仕事ってなに?強盗とか?
早くついて。お願い。早く3階へ!
たった数分のはずなのに、こんな長く感じるとは思わなかった。
ドアが開いて早足でその場から逃げる。
良かったこれでもう大丈夫。
「ああ、先生!よかった間に合った!大丈夫ですか!」
「あらま。善治君?どうしたの?」
「どうしたのて。そんな殺生な。先生が手術するて聞いて飛んできましたんや」
「あらあら。まあまあ」
何で何時迄もおじさんがついてくるんだろうかとビビったらなんてことない。
目的地が一緒だったんだ。
「志真、あの方は?」
「さ、さあ。知らない…生徒さんかな。先生って」
「ああ。…なんというか、凄い迫力があるわね」
「うん…」