しましまの恋、甘いジレンマ。
おばさんは検査などが押して予定を2時間ほど遅らせて手術室へ行った。
何か言えばよかったのだが何を言えばいいか分からず、ただ微笑んで見送る。
本人も何も言わずにこやかに去っていった。
「沙苗先生の姪さんとその娘さんですか。いやいや、どうも。はじめまして!」
「…は、はじめまして」
「どうも…」
「これ、皆さんで食べてください。先生には後で花を持ってきます」
「そ、そこまでしていただいて」
おばさんの居ない病室にて、お見舞いを渡しペコペコと頭を下げるおじさん。
サングラスを外すと余計に顔が怖いのを本人も分かっているようで
スイマセンといってかけ直した。ぱっと見、借金取りに病院まで押しかけられた
母娘のようにも取られかねない。
「いえいえ。うちのテオ君が世話になってますしね!」
「ておくん?」
「……え」
今なんていった?
「私、こういうもんです」
そう言って母に名刺を渡す。
「嶋さん…嶋工業ってあのCMでよく聞く」
「嶋善治言います!ソレの他にもなんぼか会社経営してまして。困ったことが
あったら何でも言うてください格安で最高の商品を提供さしてもらいます!」
「……それはどうも」
「いえいえ、先生は俺の恩師。そちらサンはテオ君の婚約者。家族も同然ですわ!」
そう言ってニコニコと愛想よく笑うと志真にも律儀に名刺をくれる。
顔が引きつる母を他所に志真は石化。勝手に知冬の父親は彼に似た
イケメンで相応にダンディでしゅっとして全体的にスリムな人だと思っていた。
長身ではあるけど他がイメージと違う。
あと、もうひとつ。気づいちゃった。
「シマシマだ」
志真が嶋知冬と結婚したら嶋志真でシマシマ。
冗談みたいだけど全然笑えない。
「ほんま気立ての良さそうな可愛らしいお嬢さんで」
「ど、どうも。ありがとうございます…志真、ほら、何か言いなさい」
「は、はい。はじめまして、志真です」
「改めてお母ちゃん来たら挨拶さしていただきます、今日は先生が大事な日ですしな」
「そうですね」
笑えないよ、知冬さん。
善治はまたきちんとお見舞いに来ますと言って去っていく。
それを見送り、やっと一息ついた志真と母。
「……結婚考えなおそうかな」
「でも悪い人じゃなさそうよ?この会社も有名だし、相当なお金持ちだわ」
「そうじゃないよ。…私やだ。シマシマなんてヤダ」
「はあ?……あ、そっか。嶋志真か。あはははは!いいじゃないシマシマ!」
「そうやって笑う人がいるから嫌なの!」
幼いころどれだけその名前をいじられてきたか。
トラウマが蘇るじゃない。掘り起こされるじゃない。
「あ、そうだ。婚約したなら結納を交わさないとだめね」
「……」
「大丈夫。なんとかなるって。ね?」
「笑いを堪えながら言われても嬉しくない」
人のことだと思って。
「手術は終わりました?」
「実は時間が押してて、まだなんです。…先に戻ってます?」
15時過ぎに知冬が病院へ来てくれたけれど、まだ終わらない。
「志真と居ます」
「ありがとう。……その、知冬さん。私ね、あの」
「あら知冬君。昼に貴方のお父さんが来てくれて花まで届けてくれたわ。ありがとう」
「父が。そうですか。…大丈夫でしたか?あの人」
「志真がかなりショックを受けてたわよ。結婚やめようかとかなんとか」
「お母さん!」
「嫌な事はきちんと言っとかないと後悔するわよ?シマシマちゃん」
「…話し、できます?」
「はいはいどうぞ。私は様子を見てくるわ」
「ちょっとっ」