しましまの恋、甘いジレンマ。

土曜日、朝。

実は金曜日に実家へ帰っており知冬とは顔を合わせていない。
彼も母親が来日して呼ばれているようで久しぶりの家族水入らず中。
だけど頻繁に「何してる?」とか「とても退屈です」とメールが入った。

「お母さん。どうかな」
「うん。立派な七五三」
「ぜ、全然だめじゃない」
「冗談。成人式を思いだすわ」
「…それも微妙だな」

早くに母が予約したサロンへ行き着付けと髪のセットアップ、
そして志真が普段するよりもきっちりと派手めのメイクをしてもらう。
自分だけかと思ったらちゃっかり母親も隣でセットしてもらっていた。

約束の時間は11時。待ち合わせ場所に指定されたのはなんでも
財界の大物なんかが通うという、それはもう超のつく高級な料亭らしい。
ちょっとお高いフレンチとか想像していた志真には想像もできない世界。

「なあ、志真。本当に大丈夫か?その、婚約なんてもうちょっと様子を見てからでも」
「大丈夫だよ。心配しないでお父さん。その辺はきちんと知冬さんにも話してる」

待ち合わせ場所に10分前に到着した山田家。父はまだ納得しきってない様子。
たしかにろくに挨拶もできないまま、挨拶したと思ったらいきなり婚約だもの。
大丈夫かと思われても仕方ないかも。一緒に住んで居ることも知らないのだし。

「ああ!山田さん!こっちです!こっち!」
「ひえぇっ」
「お父さん。大丈夫、怖いのは見た目だけだから」
「…そ、そうなのか。なら、いいか…いいのか?」
「いいの。行きましょう」

待っていた嶋家の人々はすでに店の中に居たようで、慌てて手招きして
3人を中へ通してくれた。仲居さんがすぐ近づいてきたが断って。
長い廊下を善治の案内で歩き続け、りっぱな建物に綺麗な日本庭園を眺めつつ。
やっと重厚なふすまの向こうに机を間にはさみ山田家と嶋家が揃う。

「すいませんな、お待たせして。こっちが嫁のシモーヌです」
「ハジメマシテ。シモーヌデェス」

金色の髪に青い、じゃない。やはりヴァイオレットの瞳をした美しいお母さん。
あまり日本語は得意ではないようでそれ以上はフランス語でやり取りしている。
ここはイメージ通りのフランス美人。知冬は8割は母親に似たようだ。

山田家も父から順番に挨拶をして、話をしていたら昼食が運ばれてきた。

「知冬君はこのまま日本に住むのか?」
「いえ。元から期間限定の講師だったので。終了すれば帰国します」
「そうなるととんでもなく遠距離になるぞ志真?」
「うん。その話もしたの。それでいいってなった」

何度も何度も話し合って決めたこと。知冬は離れても毎日志真を口説くと言った。
父が母にするように、熱い言葉を君に届けると。

「テオハ芸術の神様遣わされました天使デス。テオを愛スルナラ、理解ありますカ?」
「正直に言うとその辺はまだ自信はありません。美術の成績は酷かったですし。
平凡な事務職員でして。でも、知冬さんの為に毎日ごはんを作ってコーヒーをいれて、
仲良く笑いあえるような女でありたいと思ってますっ」
「……」

毎日ご飯作るとか当たり前ですよね。ああ、我ながら幼稚すぎるアピール。
何やらゴニョゴニョと知冬と話し合うシモーヌ。そこへ旦那さんも合流し
山田家には分からない言葉で3人が相談をし始めた。

何だか集団面接でも受けているかのような気分です。
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