しましまの恋、甘いジレンマ。

ご馳走をたらふく頂きお酒も入ってすっかりご機嫌で
意気投合した両サイドの父と、多少は出来る英語で話しかけ
何とか意思疎通が出来る母たち。あまりにも家が違いすぎて
最初はうまくいくか不安ばかりだったけれどなんとかいきそう。

これもおばさんの引きあわせてくれた縁のおかげなんだろうか。

「志真。…綺麗だ。とても。美しい」
「知冬さんさっきからそればっかり」

退屈になってきた所で知冬に手を引かれ庭へ出てきた。
何だかこれってお見合いしてるみたい。

「それしか言葉が見つからない。あぁ、もっと俺に語彙があればいいのに」

でも違う。人気のない場所まで逃げてきたら知冬に腰を抱かれうっとりと見つめられ
何度も軽い触れるだけのキスを交わす。よほど着物姿が気に入ったらしい。

「知冬さんのお母さん、私を気に入ってくれなかったですよね。
ごめんなさい、何も自慢できるものがなくって。でもきっとひとつくらい何かしら」
「母は君を気に入ってますよ。いい娘だと褒めてた」
「え?」

本当に?あんな拙いアピールで?

「俺の手は絵を描くために神から与えられたものだからと昔から台所には
一切立たせない人で。家事も殆どしたことがない。独立してからも
何かと煩いから父に日本へ来ないかと言われた時は飛びつきましたよ」
「…なるほど」

特別秀でたものが無かろうと知冬の為に家事を頑張ってくれたらそれでいいわけだ。
そういえばかなり片言の日本語で芸術の神様がどうとか言っていたっけ。
彼の手は芸術のもので、家事なんかして怪我なんかしたら大変ってことか。

でもそれって奥さんじゃなくて家政婦さんでもいいような。

自分でもそんな事を言っておいていまさらちょっとさみしくなってきた。

「ひどい話ですよね。俺の手は芸術だけのものじゃないのに」

ちょっと俯いた志真の頬を手で軽く上に上げて、にこっと微笑む。

「……、私の知冬さん?」
「Oui。志真をこうして抱きしめて。頬を撫でて。…唇を頂いて」
「……んー。…だめ。舌はだめ」
「志真。君を口説き落としてみせる。フランスで共に生きてもらう」
「……じゅ……じゅてーむ」
「ん?何ですか?聞こえませんでした。もういちど」
「じゅてーむ…」
「志真、俺が色々と言葉を教えるから。もっと沢山覚えて」
「そうやって絶対変なこと言わせる気でしょ!自分で頑張ります!」

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