しましまの恋、甘いジレンマ。
騙すのは苦手です
志真が相続できるかもしれない家を見に行きたいと言われて、
そのまま押されて了承はしたけれど。相手はそこから動く様子はないし、
こちらもどうしていいか分からずにしばし手持ち無沙汰な志真だったが、
そこへ飲み物が来てここぞとばかりに一口。
飲んだはいいが結局その次にすすめる話が出来ず、悩んで。
「え。えっと。あの、簡単な自己紹介をしません?」
当り障りのない会話を選択したつもりだった。
「え?」
「え」
けど、相手の反応はびっくり驚いた顔。
そんな反応されるとは思わなかったから思わず志真も聞き返す。
「俺、名乗らなかったっけ?出身も言わなかった?え。貴方、アレなの?
人の話ちゃんと聞かないタイプ?」
「ち、ちがいますよ。そこは聞いてました。でも、その、ざっくりしてたし。
私の事だって全然話し出来てないですし」
これから親やおばさんの前で婚約者の役をしてもらうというのに
お互いに名前と出身しかしらないっておかしいでしょう?
志真は若干テンパッてしどろもどろになりながらも丁寧に説明した。
「……」
「あ。あの。…その、わかって頂けました?」
「ああ、うん。そう、じゃあ。聞くから話して」
相手もコーヒーを一口飲んで、
あまり興味なさそうに頬杖をつきながらこちらを見つめる。
「は、はい。えっと、私は山田志真と申します。職業は学校の事務職員。
歳は…29です。趣味は特にこれといって無いですけど、いちおう読書かな。
なのであんまり外に出て遊ぶのは好きじゃないです。たしなむ程度で」
「まあそんな雰囲気ですね」
「……」
あれ、しれっと馬鹿にされた?
確かに自慢できるスキルも容姿も趣味も何もない。大学も2流。運動も苦手。
何か目標があって頑張っていることもナシ。常に日々ことなかれ。
でもそんな吐き捨てるように言わなくても良くないですか?
「テオドール・ド・ラ・ファージュ。母の姓ですが、こちらで通したほうが
何かと便利なので。本業は画家です。それで生活が出来るほどには
名も作品も売れています。歳は36」
「凄い先生がうちの学校の講師になってくれたんですね」
「知り合いに頼まれて」
「あ。たしかそんな話を」
「……」
「あ…はい、…ありがとうございます」
だんだんわかってきた。この人は志真に恐怖を抱かせるタイプの人。
そして凄く意地悪そう。これは騙そうとする天罰なのだろうか。